トーチ

2019年4月19日 金曜日

殴って倒せそう

 「自分よりも年上の女の人たちは、みんなどこで一人酒しているんだろう」

 この間ふと、居酒屋のカウンターで思いました。私以外の客は全員男性で、くったくたに煮込まれてまっ茶っ茶の長ネギのようなツラをしているおっさんばかりです。みんな一人で、思い思いの時間を過ごしています。

 穴という穴を全て緩ませてテレビを見ているおっさん、
 同じく全穴を弛緩させてスマホをコネコネいじくり回しているおっさん、
 タバコを延々と虚ろな瞳で吸い続けるおっさん、
 瓶ビールをチェイサーに熱燗と刺し盛りを食す私、
 そして、黙々と串焼きを炙り続ける店主のおっさん…。

 私とおっさんたち、全く関わり合いのない人間同士ですが、すごくいいグルーヴ感が生まれています。それぞれが適切な距離を保ち、お互いの邪魔をしないよう、粛々と己の時間を楽しむ。健全で、正しい飲み屋のカウンター席の在り方だと思います。自宅で過ごすのもいいですが、居酒屋やカフェなどガヤガヤした場所で過ごす一人の時間が、私は何より好きです。気を使いながら会話をしなくていい、長居するも帰るも全て自分のタイミング次第、ああ、超ラク…。

 でも、大好きなホタルイカを食しながら思ったのです。
 あれ? そういえば、女の一人客って、自分以外にいないぞ。

 店の問題でしょうか。小汚い居酒屋ではなく、ちょっとおしゃれなワインバルとかだったら、一人で酒と食事を楽しんでいるOLがうじゃうじゃいたりするのでしょうか。でもそういうところは店員や常連客とおしゃべりしにいく人がほとんどなので、求めているものが違います。試しにクラフトビール店に何軒か行きましたが、一人客で来ているのはやっぱりおっさんばかりです。女性どころか、20代らしき男性すらいない。渋谷ストリーム内のバルでは、皮脂の分泌量が4割増になった琴欧洲にそっくりなおっさんが店員の男性に「もうさあ! 今日すんごい疲れちゃったよ! 道玄坂からここまで歩いて来たの。歩いて来たんだよ!? 俺、めっちゃすごくない!?!???」と殴り倒したくなるような話をしていました。こんな奴に絡まれたらたまらん…。一杯1000円もするビールを慌てて飲み干し、10分ほどで退店しました。

 「一人で飲んでいる人=かわいそう」と勘違いした人間や、出会い目的の客に絡まれる度に、この世界が憎くてたまらなくなります。きっと、私が身長2m・体重200kg超えのシルヴェスター・スタローン系おっさんだったら声をかけなかったはず。以前何かで見たのですが、「道を尋ねるとき、どういう基準で人を選びますか」というアンケートを取った結果、ダントツ一位で「いざとなったら殴って倒せそうな人」だったそうです。私、すごく頻繁に道を聞かれます。つまり、この一人飲みをしている時に話しかけてくる人というのも、私のことを「殴って倒せそう」と思っているのではないでしょうか。

 話が脱線してしまいました。
 何が言いたかったかというと、女性のみなさんが一体どこで一人の時間を過ごしているのか、とっても気になっています。全然街で見かけないから。もし私が50、60、そして70歳とかになったとき、今行っているような小汚い居酒屋で一人酒をしていたら、多分すごくやばい姿に見えるに違いない。人生の折り返し地点に立ったときに、一人でそっと飲み食いするにふさわしい場所とはどこなのか。誰か知っていたら、教えて欲しいです。(編集部・信藤)