行けたら行きます 6

 石田さんがまた入院した。また、と言っても最初から決まっている抗がん剤治療のための入院なので特筆すべきことはない。
 前回の抗がん剤治療は、入院してから抗がん剤治療に耐えられるかの検査が数日あり、結果を待ってから抗がん剤治療に入った。抗がん剤は点滴での投与で、一週間ほど続いた。毎日のように採血があり、石田さんの血管が細くなっているらしく、最初は腕でやっていた採血も、後半は足から採るようになった。それでも採れなくなる可能性があったらしく、首元に採血用の器具を埋め込むかどうか、という話まで出た。それは嫌だなあと石田さんは言っていたが、なんとか回避されたらしい。抗がん剤治療が終わって一週間ほど様子を見てから退院した。前回は3週間ほどかかっていたが、今回は最初の検査がなくなり、うまくいけばもう少し早く退院出来るかもしれないという。

 二週間の在宅中、珍しく体調は良さそうだった。良いとは言っても、基本的には横になっていて、寝込まないだけ十分と言える。以前は襖一つ隔てた部屋から、夜中中唸り声が聞こえる日もあれば、トイレで吐き続ける日もあった。精神的に私も相当参っていた。よく、子ども達はどうしているのか、と聞かれるのだが、子ども達は現実を見ているような見ていないような、正直どう思っているのかは読み取れない。日々父親の変化に順応しているというか、そこにあるものとしてただ受け入れている、という印象だ。子ども達が変わらず元気でいてくれることが救いでもある。

 自分の行動を特に報告するわけでもない石田さんが「日曜の夕方、少し家を空けてもいい?」と聞いてきた時があった。どこ行くの、と聞くと、新宿でデモがあるのだと言う。免疫力が落ちているので人混みには行かないように先生から言われているのを踏まえ、新宿の駅前にデモの隊列が通りがかる時に、南口の歩道からプラカードを掲げるのだという。その日は自分が月一でやっているDJイベントもあったのだが、そっちは休むのだと言う。密閉されたクラブの人混みと外では違うと言う。もはや言葉が見つからず、呆れるを通り越して感心さえする。気をつけてよ、とだけ言って暑い中送り出した。

 数時間して帰ってきた石田さんの表情は、疲れてこそいるものの明るい。デモ隊の中に知り合いの顔がたくさん見えたと言う。しかしそのまま畳に座り込み、うなだれて動かなくなった。相当堪えたのだろう。今日は夕飯いらないわ、と小さく言い、風呂にも入らずそのまま寝込んだ。結局次の日の夕方まで起き上がれなかった。

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《著者プロフィール》

植本一子(うえもといちこ)

1984年広島県生まれ。

2003年にキヤノン写真新世紀で荒木経惟氏より優秀賞を受賞、写真家としてのキャリアをスタートさせる。広告、雑誌、CDジャケット、PV等幅広く活躍中。

著書に『働けECD―わたしの育児混沌記』(ミュージック・マガジン)、『かなわない』(タバブックス)、『家族最後の日』(太田出版)がある。

『文藝』(河出書房新社)にて「24時間365日」を連載中。

http://ichikouemoto.com/