行けたら行きます 9

 先週の日曜に渋谷のライブハウスでMETEO NIGHTというフェスがあり、石田さんがサプライズでステージに出ると言い出した。もはやそんなことは珍しく、ならばと娘たちも連れて見に行くことに。ストラグルフォープライドという友人のバンドの出番の初めに、呼び込みをするらしい。数年前に出した「MASTER」というECDのベストアルバムの一曲目が「次はECDでーす」というストラグルのライブ音源を使ったものなのだが、それの逆をやってほしいとストラグルの今里さんに頼まれたのだという。
 出番ギリギリの時間を逆算し、タクシーで会場に向かった。ライブハウスに長居出来ないのを見越してのことだ。昨日今日と盛り上がっているこのフェスも終盤という時間帯に着くと、ライブハウスの前の路上は沢山の人でごった返していて、知り合いの顔もちらほら見える。私も毎年のように遊びに来ていたが、客と演者の垣根がなく、そんなところも好きだった。
 今里さんに連れられ、裏口のエレベーターで会場まで上がると、ちょうどそこにBUDDHA BRANDのメンバーがいた。開口一番「石田さん、誰かわかんないっすねえ」と言われている。狭いライブハウスの裏で、気付いた演者の人たちに声をかけられたり、わざわざ挨拶にくる人も。控え室に入ると、ちょうどBUDDHA BRANDが始まるところがモニターに映し出されていた。座って一息ついた石田さんだったが「ちょっと見たい」と言うので、ステージ袖まで見に行くことに。袖に立って一緒にライブを見ていた石田さんだったが、ちょうどいい位置にあった座れそうな機材をすすめると、そこに座ってうなだれた。体がしんどいのか、心配になり声をかけるが、大丈夫というばかり。ストラグルのライブまで控え室に戻るも落ち着かない様子。緊張しているのかもしれない。無理もない、相当久しぶりのステージだ。今日娘たちを連れて来たのも、ステージに上がる石田さんの姿を、今のうちに見せておかなければ、と思ったのが正直なところだ。
 私や周りが今か今かとソワソワしていていると、横にいた石田さんがマイクを持ち、スッと袖から出て行った。ざわつく客電がついたままのステージにゆっくりと向かっていく。それに気づいたステージのスタッフの人が「出ちゃったよ」と独り言を言いながら大慌てで何かのスイッチを入れた。ステージの真ん中に立った石田さんがまっすぐ前を向く。照明が切り替わり、客席は一気に静かになった。
「次はストラグルフォープライドです」
そう言うと、マイクを両手でかかえる格好で背を丸め、ウォーと大きく咆哮した。それにディレイがかかり、石田さんの声が会場に響き渡る。私はその姿を夢中になって写真に撮った。撮りながらも、まだこんなに声が出せるんだ、と感心していた。石田さんは叫びの限りを出し切ると、お客さんの歓声を背中に受けながら、出て行った時と同じようにゆっくりとした足取りでこちらまで戻ってきた。一瞬の出番だった。

 すぐにストラグルの轟音のライブが始まると、娘たちの目は点になりながらもステージの今里さんの姿を追っていた。いつも自転車を教えに来てくれる刺青だらけのおじちゃんの初めて見る姿に驚いたのだろう。娘たちは今里さんのことを「子どもみたいなおじちゃん」と呼んでいる。モッシュとダイブの起こるライブ中、ステージ上で時々子供のように笑うのが見える。石田さんは体がしんどいから出番が終わり次第帰ると言っていたのだが、結局最後まで袖に立ったまま見ていた。ライブ終わりに今里さんと握手をしていたが、二人とも本当に心から嬉しそうな顔だった。

 帰りのタクシーで娘たちにお父さんどうだった?と聞くと、上の娘が興奮した様子で「かっこよかった」と言い、下の娘は少し考えてから「ぜんぶのちからつかってるなーとおもった」と言う。疲れているはずの石田さんは、行きよりもなんだか元気になっていた。

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《著者プロフィール》
植本一子(うえもといちこ)
1984年広島県生まれ。
2003年にキヤノン写真新世紀で荒木経惟氏より優秀賞を受賞、写真家としてのキャリアをスタートさせる。広告、雑誌、CDジャケット、PV等幅広く活躍中。
著書に『働けECD―わたしの育児混沌記』(ミュージック・マガジン)、『かなわない』(タバブックス)、『家族最後の日』(太田出版)がある。
『文藝』(河出書房新社)にて「24時間365日」を連載中。
http://ichikouemoto.com/