土の上 13

 台風の夜、すごい風が吹いて裏の林の木がバリバリと音を立てて折れた。夏にたくさんの葉をつけて大きくなった木々は、最近はかなり勢いを失ったように見える。どの部屋にいても鈴虫の声が聞こえ、家のぐるりを虫たちに囲まれているのだとわかる。秋が来た。
 涼しくなってくると、編み物を始めたくなる。小学四年生の時に学校のクラブで編み物クラブに入って以来、ほぼ毎年何かを編んでいる。小さい頃は編み物の本などを見ても意味がわからず、自己流に編んで満足していたけど、大人になってからは編み図を読解しながら複雑な柄や模様を編み込んでいくのが楽しくなった。
 ここ数年は毎年娘に帽子を編んでいる。子どもの頭は小さいからすぐに編めてしまうし、自分では被れないような色や派手な柄など、子どもならではの可愛らしさがあって楽しい。そして、何よりも喜んで被ってくれるのが嬉しい。編み物に限らず、ワンピースやシャツ、ズボンなど、手作りの服も今のところ気に入って着てくれている。完成したものを見せたときの喜ぶ姿を見ると、いくらでも作ってあげたくなる。



 
 私の家では、小さい頃から父の作った机やベッドを使っていた。そして、母の作った鞄などはどことなく「母が作ったもの」という雰囲気を纏っていて好きだった。小学生頃までは母の手作りのおやつやパンを食べていて、スナック菓子はあまり食べたことがなかった。
 子どもが生まれてからは、自分の小さい頃の記憶を辿ることが多くなり、改めて親の偉大さを感じている。五人の子どもを育てながら、自分だけの自由な時間はあったんだろうか。したいことはちゃんとできていたんだろうか。家に普通にありふれていたものが、普通じゃない労力と愛情に溢れていたことに大人になってから気付かされた。そんなことはつゆ知らず、子どもは自分の時間を生きている。きっとそれで良いのだろう。
 今夜も鈴虫の声を聞きながら、母さんは編み物をしよう。
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《著者プロフィール》
宮崎信恵(みやざきのぶえ)
1984年徳島生まれ。
STOMACHACHE.として妹と共に雑誌などのイラストを手がける。
その他、刺繍・パッチワーク・陶芸・木版画・俳句・自然農を実践する。
http://stomachache.jp
http://nobuemiyazaki.tumblr.com