土の上 18

 朝、日が昇ってくると徐々に仕事部屋に光が射し込み始める。まだ日の昇りきらないうちは、林の木々の葉が反射する光と風に揺れる影が壁と机に映る。視界の隅でちらちらと揺れているけど、なぜか目障りにはならない。
 こういう日の午前中は明るい部屋で気持ち良く仕事ができる。雨が降り続いた時期は低気圧による頭痛がひどく、娘を見送ってから再び布団に戻ることが多かった。でも、晴れるとすっきり目が覚めるから、太陽の力はすごいなぁと思う。最近育て始めたアボカドの種も、窓辺でぽかぽかと半身浴している。
 ラジオの天気予報で今日は洗濯日和だと言っていた。洗濯機を回し、脱水し始めた頃にやかん一杯の水をコンロの火にかけた。外の洗濯小屋に干した後、沸いた湯でコーヒーを淹れた。残った分はお茶にしようと阿波番茶の葉をどさっと放り込んだ。お茶っ葉は多くが葉の原型を留めていた。葉を煮出してその汁を飲むなんて、すごく原始的で動物っぽいなぁと「葉っぱ」をヤカンに放り込むたびに思う。様々な古い風習や文化がなくなっていく中、こうやって長い間消えずに残っているものからは何か力強いものが感じられる。葉の汁は毎日飲んでも飽きずに美味しい。
 何か食べたいな、と見渡すと、食べきれずに残ったスコーンが固くなっていた。どうにか温めようと思い、お茶の蒸気で蒸してみることにした。ヤカンの蓋を開け、そこら辺にあったちょうど良い大きさの漉し器を載せ、その上に皿に載せたスコーンを置いて蓋をした。完璧な蒸器になった。こういう小さな発見は嬉しい。仕事をしながら待っていると、スコーンのことは完璧に忘れてしまった。
 コーヒーを飲み終え、カップを持って台所に行くと、先ほどの放置された即席ヤカン蒸器が目に入った。と同時に数十分前の我に返り、慌ててスコーンを取り出してお茶を水筒に注いだ。
 再び明るい部屋に戻り、温かい番茶をすすった。そして、齧るとぼろぼろと落ちそうになるスコーンをこぼすまいと、口いっぱいに頬張った。

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《著者プロフィール》
宮崎信恵(みやざきのぶえ)
1984年徳島生まれ。
STOMACHACHE.として妹と共に雑誌などのイラストを手がける。
その他、刺繍・パッチワーク・陶芸・木版画・俳句・自然農を実践する。
http://stomachache.jp
http://nobuemiyazaki.tumblr.com