土の上 27

 陽が落ち切る寸前、外はまだほのかに明るい。ヘッドライトに照らされた細かい雪が、フロントガラスめがけて舞うように飛び込んでくる。普段見慣れない光景に気分が高揚しているのに気付いた。カーステレオからは「次に住むなら火星の近くがいいわ」という歌声が聴こえる。別の星でもこの景色は見られるのかな、と思った。

 雪が降るのは久しぶりのことで、私にとってはこの冬初めての雪だった。近頃は随分冷え込んでいたし、天気予報では最強寒波が居座っている、という聞き慣れない言葉を聞いていた。
 薪の火や編み物、分厚いセーター、煮込み料理、虫のいない庭など、冬は楽しいことが多いから好きだ。外は生き物がしんと静まり返っていて冷たいのに、部屋の中は暖かくて、羽織っている上着を一枚脱いで、頬を赤くしてホクホクしている瞬間は何とも言えない幸せな気分になる。雨の日に雨音を聞きながら家の中でダラダラと過ごすときの感じに少し似ている。
 そして、冬はよく頭が働く。考えが研ぎ澄まされて、より深くまで入り込んでいけるような感じがする。制作の良いアイディアも冬に思い浮かぶことが多い。雪の降る地方でしか工業は発展せず、哲学者も生まれない、と何かで読んだことがある。それが本当なのかはわからないけど、なるほどな、と思った。友達に話すと、別に哲学者は生まれない方がいいんじゃないか、と言った。能天気に楽しく生きていられる方が幸せなのは間違いないだろう。気温によって色々な考え方ができるのは面白いよなぁと思う。

 夕方の道路は渋滞していた。珍しい吹雪を用心してか、帰宅ラッシュの波なのか、それともただのマイペースなドライバーのせいなのか。はっきりわからなかったけど、そのどれもが一因しているように思えた。
 カーステレオのCDは二巡目に入り、再び火星に思いを馳せながら、いつのまにか真っ暗になった道を走った。火星にも哲学者はいるのかな。土星の哲学者は頭に輪っかをつけていそうだけど。

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《著者プロフィール》
宮崎信恵(みやざきのぶえ)
1984年徳島生まれ。
STOMACHACHE.として妹と共に雑誌などのイラストを手がける。
その他、刺繍・パッチワーク・陶芸・木版画・俳句・自然農を実践する。
http://stomachache.jp
http://nobuemiyazaki.tumblr.com