土の上 30

阿波日記
◆一月二十九日(月)
 蓄膿がすっきりせず、頭痛が続くので耳鼻科へ。
 行きの道沿いの古い家屋は見るたびに少しずつ歪んでいる気がする。車のラジオからは『きらクラ!』の再放送。
 待合室で『富士日記(武田百合子著)』を読みながら三時間待った。視界の隅に座っているおじさんの貧乏ゆすりで気が散る。
 帰宅後、ポストを開けると富山の友人から手紙。年賀状とお店の便りが同封されていて嬉しく読む。L社からは支払調書届く。
 あ、雪と思ったらただの埃舞う。
 下ろしていた髪を後ろで一つ結びにすると、気持ちがしゃんとする感じ。
 迎えへ出ると、寒いけど晴れていて気持ち良い。カリフラワー畑の前で合流。
 娘、珍しく夕食前に全て宿題を終える。音読は『たぬきの糸車』を二回。おかみさんの台詞だけを私も一緒に宙で言うと可笑しがって喜ぶ。日記もさっさと書いていた。
 突然、肩たたき券と食器洗い券をプレゼントされる。早速肩を叩いてもらう。だらだらしたい土曜以外はいつでも使えるそう。

◆一月三十日(火)
 朝ごはんのパンは蒸したのがいいと言うので蒸してやる。パンの耳は残していた。贅沢者の貴族か、と思う。
 頭痛がするので十時まで寝る。
 洗濯機を回して庭でラジオ体操第一。体が伸びてシャキッとする。
 仕事部屋の電球が切れる。
 コートのポケットに電球を入れて迎えに出る。今日は何をしたのかと尋ねると、氷がすっごいちょっとだけできてた話。
 ホームセンターで電球とフーセンガムを買って噛みながら歩いて帰る。
 近所の家の南天の実がいつの間にかまばらになっている。少し前まであんなにぎっしり実が付いていたのに。
 『Ready Steady George!!』を聴く。
 夕方、娘の定期検診で眼科へ。車を走らせると、まだ明るい東の空に少し欠けた丸い月。
 『夜のプレイリスト』、松山猛の選曲で加藤和彦の『スーパー・ガス』。
 夕食の支度中、娘はamazonの段ボール箱を机にして宿題。音読一回。ラジオのニュースで聞こえた「厚生労働省」のことを「厚生ロンドン省」と聴き間違えていて、一人密かに笑う私。日記はいつまでも書かず、風呂前にやっと書いた。
 シャンプーしてあげていると「河童は神様だって知ってた?」と聞かれる。知らなかった、何の神様なんだろうね、池とかかな?と言うと「キュウリの神様じゃない?」と真面目な顔をして言っていて、一人密かに笑う私。

 夜中の三時、しんどくて寝れない、と娘泣き出す。三十九度の熱があり、急いで保冷枕を持って来て、おでこに濡れタオルを置いてやる。私の布団を寝室から隣の居間へ移動。
 五時、寝室から嘔吐するような音。結局吐けずに寝た。
 六時過ぎ、娘嘔吐。
 短編集のような夢を見た。
◆一月三十一日(水)
 朝、土曜の参観日の発表会に出られないかも、と寝室で娘が泣いている。頑張って練習していたらしいのでかわいそう。熱は三十八・九度。
 朝食、娘食べられず。昨晩、ビーフシチューに舌鼓を打っていた娘はどこへ。
 急いで身支度を整える。鏡の中、疲れた顔した自分映る。
 耳鼻科は待ち時間が長すぎるので内科へ。毎日病院にばかり行っている。インフルエンザB型だった。
 帰りにスーパーに寄る。プリンなら食べられるらしい。車を出ようとする私に「プッチンプリン!」と大きな声。病気の時は何でも買ってもらえるのをよく心得ている。
 帰宅後、ポストを見るとR計画から支払調書。
 プリンを食べた後、嘔吐。吐き気どめの座薬を入れて、長く眠った。
 夕食後、薬を飲ませて寝かせたけど、すぐに呼び出し用のおもちゃの銃の音が聞こえる。トイレに行きたいと言うので抱えて連れて行ってやる。

◆二月一日(木)
 サラーム海上の『音楽遊覧飛行』でトルコのミュージシャンの『いつでもどこでも』という曲がかかる。救いようのない暗さだったけど、曲の長さが短いことには救われた。
 ゴミ出しに出たら小雨が降っている。かと思ったら雪だった。
 娘の熱は三十七・〇度に下がっている。元気になって漫画(『サザエさん』・『クッキングパパ』)などを読んで過ごす。
 お腹が空いて間食にチキンラーメンを少しずつ食べる。
 外山アナとピエール瀧の『たまむすび』。
 娘の担任の先生から電話。具合はどうかとか、土曜の発表会が残念だとか、今週分の荷物を取りに来て、だとか。
◆二月二日(金)
 娘、朝から寂しい、目が痛い、などと言って泣いている。熱を測ると三十九・七度。居間の私の布団で寝たいと言うので寝かせる。空気清浄機を寝室から居間に移動する。一通り泣きまくって再び眠る。
 起きたらまた泣き始める。得体の知れない悲しみに暮れている。泣いては寝て、泣いては寝てを繰り返す。吐き気どめの座薬も入れる。
 Mハウスから支払調書届く。
 小学校に上履き、給食エプロン、プリントなどを取りに行く。二日ぶりのシャバの空気。コンビニでゼリーを買って帰って娘に食べさせる。
 熱下がらんあなたの空は今日も天井。
◆二月三日(土)
 朝、今頃小学校では発表会か、と思う。娘の熱は三十六・八度。
 ゴンチチの『世界の快適音楽セレクション』、今日は「すぐにの音楽」。
 トイレのカレンダーをめくるのを忘れていた。二月は『十四ひきのねずみ』が晩ご飯後に家族でロウソクの火を囲んで何かの実を食べている絵。一番下のとっくんがお母さんの膝の上に座って胸の前にすっぽり入って眠たそうに座っている。こんな風に百パーセントの安心感に包まれたいな、と無性に羨ましくなる。
 母が恵方巻きを買って持って来てくれる。
 Aミューズから支払調書、友人から娘に小包届く。サザエさんの漫画二冊を貸してくれた。封筒にも古そうなサザエさんの切手が貼ってある。漫画を読んで、アニメも見る。
 娘、『美味しんぼ』に出てきた焼きおにぎりをリクエストしてくる。食欲があって何より。
 昼食中、食卓にウイルスをふりかけるような咳。
 夜、恋人に電話。仕事の話、絵本の話、塾で生徒に怖がられている話、確定申告の話などする。娘は授業参観で発表するはずだった『くじらぐも』の音読を聞かせていた。
 寝る前に布団の中で『生の肯定(町田康著)』をひとり吹き出しながら読む。
◆二月四日(日)
 起きたら雪が積もっている。娘は完全に熱が下がった。
 エアコンをつけて、サウナにも火をつけて家を暖める。ゴウゴウと勢いよく薪が燃える。
 外で少し雪遊び。

 朝食後、学校からもらって来た宿題のプリントをする。習っていない時計の問題は教えてやる。
 十時から『安住紳一郎の日曜天国』。
 再び雪遊び。小さなかまくらを作る。
 おやつを食べながら娘が一人でニヤついているので、何を考えているのかと尋ねたら、「日本アルプスのこと」。
 生ゴミを捨てに庭に出ると、早くもかまくらは崩壊していた。
 娘、『ルパン三世』のアニメ見る。私は少し昼寝する。
 お風呂で雀の涙の話。
 ストーブで湯たんぽを温めている間に、娘は私の布団で眠ってしまった。
 本の続きが面白くて今夜も布団の中で笑う。
 外はすごい風。
◇◇◇◇◇
《著者プロフィール》
宮崎信恵(みやざきのぶえ)
1984年徳島生まれ。
STOMACHACHE.として妹と共に雑誌などのイラストを手がける。
その他、刺繍・パッチワーク・陶芸・木版画・俳句・自然農を実践する。
http://stomachache.jp
http://nobuemiyazaki.tumblr.com