土の上 39


 小さい頃、ガムを万引きしたことがある。記憶しているのが徳島の風景だから、おそらく三~四歳頃だろう(転勤族だったから、その時住んでいた場所で何歳頃かわかるのは便利だ)。小さい頃はスナック菓子などの市販のジャンクなお菓子を買ってもらえなかったから、そういうお菓子に異常な憧れがあった。いつだったか、道に落ちていたチョコレートを拾って食べたか食べそうになったかで親にものすごく叱られたこともある。憧れというより執着に近い。
 当時の私はどうしてもガムが欲しくなって我慢ができなくなり、スーパーで周囲の大人の目を盗んで自分の服の袖にこっそりガムを忍び込ませた。三~四歳の子どもにしては巧妙な手口を使ったと思う。また、初めてにしては手際が良く、誰にもバレなかった。家に帰ってから近所の道端でズボンの裾からガムを取り出し、何粒か口に放り込んだ。せっかく手に入れた念願のガムだったのに、味を楽しむ余裕はなく、心臓がドキドキした。誰かに見つかるのが怖くて、まだたくさんガムが残っているケースを道の脇の溝の穴へ捨てた。これが私の初めての罪の記憶だ。大人になっても鮮明に覚えていて、今までにこのことを何度思い出しただろう。ほとんど誰にも打ち明けたことがなかったから、その罪の意識は自分の中で肥大化しているように思う。いっそ盗んだことが見つかって叱られて謝りに行った方が良かったのかもしれない。そうしたら、折に触れて苦々しく思い出すこともなかったのかもしれない。
 頭の中にはいくつもの引き出しがあって、様々なものが鍵となって不意に開かれる。匂いを嗅ぐなどして一瞬にして記憶が呼び覚まされるのは本当に不思議だ。できればずっとしまっておきたい記憶がなぜだかよく引き出されて嫌になったりもする。
 最近、友だちの秘密の話の引き出しが増えた。こうして私の秘密を打ち明けたら、「秘密」カテゴリーの引き出しが一つ減って良いのかな、と思った次第。

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《著者プロフィール》
宮崎信恵(みやざきのぶえ)
1984年徳島生まれ。
STOMACHACHE.として妹と共に雑誌などのイラストを手がける。
その他、刺繍・パッチワーク・陶芸・木版画・俳句・自然農を実践する。
http://stomachache.jp
http://nobuemiyazaki.tumblr.com