土の上 49

 先日、二年前に仕事でお世話になった編集者のTさんが家を訪ねてくれた。Tさんには某フリーマガジンのイラストを依頼していただいた。その後、メールで掲載誌の送付先を尋ねられて住所を伝えると、Tさんの実家と私の家がすごく近いことが発覚した。その距離、約三百メートルだった。
 また、話を聞くほどにさらに驚愕の事実が明らかになった。Tさんは三十年程前に私の実家に通っていたかもしれない、と言う。
 私の実家は、私の住む家から車で五分くらいの所にある。当時、Tさんの家もその近くにあったらしい。その頃、私たち家族は父の仕事の都合でフィンランドに住んでいて不在だった。空いた家には知り合いのフィンランド人宣教師が住み、教会を運営していた。五~六歳だったTさんは、土曜日にそこに通い、キリスト教のことを教えてもらったり、お祈りをしたり、カードゲームなどの遊びをしていたと言う。聞くところ、年代や場所も一致するし、どうやら間違いないようだった。事実は小説より奇なり、とはこういうことを指すのだろうか。
 Tさんは東京在住で、二年前に徳島に帰省する際にも連絡をくれたのだけど、その時はタイミングが合わず会うことができなかった。今回、それ以来ぶりに帰省するとのことで、ようやく対面が叶ったのだった。

 約束の時間になってもなかなか現れないTさんからの着信に気づき、電話を掛けた。今まではメールのやり取りのみで、初めて聞くTさんの声は想像以上に高かった。方向音痴らしく、家の場所を勘違いしていてかなり遠回りをして向かっている、とのことだった。
 到着したTさんは、私が勝手に親近感を抱いていたせいか、どうしても初対面には思えなかった。もしかしたらTさんも同じように思ったかもしれない。
 家に上がってもらい、改めて私の実家に通っていた経緯を聞いたり、様々なとりとめのない話をした。
 当時は会うことはできなかったけど、今こうしてあの頃私たち家族が不在だった時の家の話を聞くことができたのは、とても不思議なことだなぁと思う。その頃のことを知ってもらいたくて、家が会わせてくれたのだろうか。
 Tさんは、実家の私物整理をしに帰省していて、これから帰って続きをするのだと言った。そうして、私たちは軽い抱擁を交わして別れた。今度は来た道と反対の正しい道を歩いて行った。

 夜、外出先から戻り、車を降りて空を見上げると、頭上には星空が広がっていた。無数の星に混ざって飛行機のライトが点滅する。最終の便で東京へ帰るTさんが、この明かりの元にいるのかも、としばらく目で追って見送った。

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《著者プロフィール》
宮崎信恵(みやざきのぶえ)
1984年徳島生まれ。
STOMACHACHE.として妹と共に雑誌などのイラストを手がける。
その他、刺繍・パッチワーク・陶芸・木版画・俳句・自然農を実践する。
http://stomachache.jp
http://nobuemiyazaki.tumblr.com