土の上 50

 洗濯したティーシャツを畳んで箪笥にしまう。次の日、引き出しを開け、一番上に置いてある洗濯したてのティーシャツを着る。いつもその繰り返しで、決まった数枚のティーシャツばかりを着ている。そんな満タンのコップの上澄みの水だけを入れ替えるような毎日を、いつもの部屋で机に向かって飽きることもなく絵を描いて過ごしている。同じことの繰り返しのようで、外から持ち込まれる水によって水質は少しずつ変容していく。
 
 また季節が一巡りしようとしている。
 今年は庭の畑にトマトの種を蒔かなかった。去年のこぼれ種を当てにして、そのうちどこかに芽が出るだろうと土の上にあぐらをかいていたのを見透かされていたらしい。いくら待てども芽は出ない。そうなると途端にあの青臭い匂いが恋しくなって、気づけばスーパーの野菜売り場でトマトを手にしているのだけど、パック詰めされたトマトの実は、畑で茎や葉に触れた時のあの匂いには到底及ばない。てんとう虫もどきの虫が付くのだって何となく恋しいような、そうでもないような気分になってくる。

 この連載を始めてから一年が経とうとしている。仕事で文章を書かせてもらう機会はごく稀にあるのだけど、このような連載を持つのは初めてのことだった。毎週の執筆は私にとっては大きな挑戦でもあった。果たして私の文章を読んでくれる人などいるのかな、と頭の中のクエスチョンマークが消えることはなかったけど、良くも悪くも真面目な性格と友人や読者の方からの僅かながらも心強い感想を励みに何とか続けてこられたように思う。私のような地方暮らしのひとりの絵描きにスポットライトをあててくれた、長年の友人でもあるトーチ編集部の山田氏には心から感謝している。
 これからも変わらず身の回りのことを書き続けることはできるのだろうけど、なにせ地味な生活を送っているもので、読者の皆さんにとっては極めて退屈な話ばかりだったのでは、とも思う。とは言いつつ、漠然ともっと書いてみたいことがあるような気もしていて、ひとまずはここで一区切りとして、しばらく休載というかたちをとらせてもらうことにした。今まで読んでくださって本当にありがとうございました。

 夜、遠くの方から阿波踊りの練習に励む鳴り物の音が聞こえる。にぎやかな音とともに掛け声まで聞こえてきそう。

〝手を上げて足を運べば阿波踊り〟
 
〝一かけ二かけ三かけて四(し)かけた踊りはやめられぬ
 五かけ六かけ七かけて八(や)っぱり踊りはやめられぬ〟

 今年も暑い暑い阿波の夏がやってくる。数えきれない小さな鼓動が庭いっぱいにひしめく夏に向かって、しばらくは長い踊りに出かけるとする。数ヶ月後のコップはどんな水で溢れているのだろう。 

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《著者プロフィール》
宮崎信恵(みやざきのぶえ)
1984年徳島生まれ。
STOMACHACHE.として妹と共に雑誌などのイラストを手がける。
その他、刺繍・パッチワーク・陶芸・木版画・俳句・自然農を実践する。
http://stomachache.jp
http://nobuemiyazaki.tumblr.com