土の上 29

 イラストの仕事は、問題を一問一問解いていくかのよう。編集者やデザイナーからの指示や資料を頼りに、自分なりの答えを求めていく。分かりやすい見え方を考えたり、要望を盛り込んだり、時々、求められるものと描きたいものとがうまく噛み合わずに手を離れていってしまうものもある。笑う人を描くときは描きながらひとり微笑んでいる自分に気が付く。自分にないものを描くのは難しく、頭をひねって何とか答えへとたどり着く。

 与えられる問題によって、様々な世界を垣間見れるのも面白い。氷や宇宙、占い、ファッション、コスメ、IT、キャンプ、アイドル、ニューヨーク、中央線、チャクラ、音楽などなど。どれもこれも同じ世界で起こり、存在するのに、自分の知らないことが無数にあるのだなぁと気づかされる。

 また、ショップや建設現場、オフィスなどを訪れ、そこで働く人々の日常や仕事ぶりに触れることは、普段家でひとり机に向かっている私にとってはとても貴重な機会となる。その時ばかりはその場の一員としての気分を味わう。

 紙に印刷された絵は、家にある原画よりも少しよそ行きの顔をして、何食わぬ顔で誌面に溶け込んで見える。今でも見本誌が届き、掲載された絵を見ると嬉しい。時々、娘が「ママの絵だ!」と見つけてはしゃいでいるのを見ると、誇らしい気持ちにもなる。

 机に向かって、ラジオを流しながら、ああでもないこうでもないとコピー用紙に鉛筆を走らせる姿は、夜な夜なお気に入りのラジオ番組を聴きながら受験勉強をしていた頃の自分とほとんど変わりないような気がする。

 この一週間は、寝ても覚めても仕事をしていて、勉強漬けのような日々だった。そんな中、慢性化している蓄膿症にも苦しんだ。顔面の鈍痛と体の怠さで、ご飯も食べられずにうなだれていると、娘に「ママらしくないけど大丈夫?」と心配された。食後には皿を洗い、残り物にラップをかけ、台拭きでテーブルを拭いてくれ、立派に成長したもんだ、と我が子ながら感心した。家にあった頓服の痛み止めを飲むと、いくらか症状も和らぎ、いつものようにふざけていたら、娘も「ママらしくなってきたね」と嬉しそう。
 しきりにママらしいとからしくないとか言うものだから、ふと疑問に思って「ママってどんな人?」と尋ねてみた。娘曰く「面白くて、あんまり落ち込まなくて、怒ると怖くて、やさしくて、バリバリ仕事してる」なのだそう。そんな風にうつっているのだなぁと、娘目線の自分を初めて知った。
 今日も明日もバリバリ仕事をするとしよう。肩はバキバキと悲鳴をあげている。

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《著者プロフィール》
宮崎信恵(みやざきのぶえ)
1984年徳島生まれ。
STOMACHACHE.として妹と共に雑誌などのイラストを手がける。
その他、刺繍・パッチワーク・陶芸・木版画・俳句・自然農を実践する。
http://stomachache.jp
http://nobuemiyazaki.tumblr.com