ホームフル・ドリフティング 28

♯28 サンタクロースと「ホーム」
 
 
 日本は平成最後のクリスマスを迎えているらしい。ぼくは平成も昭和もない上海にいて、クリスマスムードがぼんやりと漂った街を見ながらいまこの文章を書いている。
 スーパーに立ち寄るとサンタクロースのぬいぐるみがたくさん置かれていて、ぼくのもとにサンタクロースが来なくなったのはいつだったか思い出そうとする。思い出せない。どこに靴下を置いていたかどうかもよく覚えていない。朝起きてプレゼントがどこに置かれていたのかも。そもそも、なんで靴下にプレゼントが入ることになってるんだっけ?
 ただ実家に暖炉がなかったのは確かで、だからサンタクロースが煙突から入ってくることもなかった。なぜサンタクロースが煙突から入ってくるかはよく知らない。検索しても理由はよくわからなかったが、なにか歴史的な経緯があるのだろう。
 そういった経緯を無視してよければ、サンタクロースが煙突から入ってくるのは、そこが「ホーム」の中心へとつながっていたからなのだと思う。暖炉のまわりは文字通り暖かくて、その家に住む人がみな集まってくる場所だ。サンタクロースがあらゆる家庭にプレゼントを配るのかは知らないが、しかしどの家にとっても煙突が「ホーム」への近道であることは間違いない。
 暖炉の面白いところは、ホームの中心地であるにもかかわらず煙突を介してその外部と直接つながっていることだろう(もちろんセキュリティ上の対策はとられているにしても、だ)。そしてリビングやダイニングについて考えていたときにも書いたように、外部との接続可能性こそが、翻ってその空間を「ホーム」たらしめているのではないかと思う。
 何もない空間にホームを立ち上げるのも難しいが、かといって密閉されきった空間にホームを立ち上げるのも同様に難しいのだ。だから一人暮らしの簡潔にして充実した家で(これまでのような)ホームを実現することは難しい。そこにはまた別の形のホームが生まれてくることになる。
 ホームについて考えれば考えるほど、そこには家族という存在が深く絡みついていることに気づかされる。家族なしのホームはいくらでもあるけれど、シェアハウスやソーシャルハウスがある種の疑似家族を形成していくように、ホームは常に家族に憧れ続けているのかもしれない。
 サンタクロースは家の外からやってきて、「ホーム」と呼ぶにふさわしい、家族の憩いの場にプレゼントを残していく。あなたの家にサンタクロースがやってくるとしたら彼はどこにプレゼントを置いていくだろうか。そこはあなたの家にとって、いったいどんな空間なのだろうか。

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《著者プロフィール》
もてスリム
1989年、東京生まれ。おとめ座。編集者/ライター。
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