#07「祖母の土葬(前編)」
【1】
私が小学3年の冬、母方の祖母が亡くなった。
人間の死に関わるのはそれが初めての事で、ましてや物心つく前から祖母に預けられて育った私にとって忘れられぬ大事であった。
その日我が家では丁度夕食を済ませたところに祖母が倒れたとの報せを受け、すぐに搬送先の病院に向かった。しかし着時には既に祖母は危篤状態にあり、やがて同じく駆けつけた兄弟,親戚,子や孫たちが見守る中、静かに息を引き取った。心筋梗塞だった。
大人達はすぐに忙しく動き出し、我々子どもたちは、夜も遅いため親戚宅の大部屋に集められて布団を敷き横になった。いとこたちも私と同様、急な事態にひどく狼狽し全員が泣いていた。私は泣きながらいつの間にか寝てしまって、目覚めた時にひどく顔が腫れ頬が突っ張っていたのをよく覚えている。
翌朝に母の実家で再会した祖母は、いつもの就寝時とは逆の方角に向けて敷かれた布団に横たわっており、その顔はただ眠っているようにしか見えなかった。各々顔を覗き込む私たちに、大人たちの誰かが「おでこ触ってごらん」と言った。私はすぐに手を伸ばし、祖母の額に手のひらをあてた。祖母の額は少し冷たかったが奥にはまだ温もりが感じられて、その感触はいつもみたいに柔らかくて、もう生きていないなんて信じられないくらいだった。しかし孫たちがかわるがわる額を撫でたり声を掛けたりしたところで、当然祖母が目覚める事は無く、私たちはまた泣いた。大人たちも泣いていた。
その日の晩が通夜で、翌日には葬儀が取り行われたと記憶している。
古く幼い頃の記憶故に葬儀の詳細は覚えていないが、僧侶による読経等を一通り終えた後、葬儀屋と私の父ら親類男性たち数人で祖母を抱え上げて白木の棺に納めた。死後硬直の為であろう、なかなか納まらず少々手間取っていたのを覚えている。
棺の蓋を閉める前の最後のお別れに、私はもう一度祖母の額に手のひらを当てた。前日の朝とは全く違い、まるで真冬のコンクリートみたいに硬くて、芯から冷たかった。あの明るくて優しくて温かかった祖母はもうこの世にいないんだということを、私はその時ようやく実感した。
棺に蓋を載せ、釘留めが始まった。金槌で釘を打ち込むカンカンカンカンという音が部屋に響くと、あちこちで堰を切ったように、私の母ら祖母の娘たちを中心に親類女性たちの嗚咽と啜り泣きが起こり、釘留めが進む毎にそれは号泣の渦に変わっていって、世にも悲惨な状況となった。私はどうすればいいのかまったくわからず、ひたすら身をすくめていた。全てがどうしようもなく怖かった。
【2】
悲愴のうちに釘留めが終ると、祖母を埋葬する為に皆んなで歩いて墓地へ向かった。 時は昭和であり、祖母の田舎ではまだ土葬の風習が根強く残っていたのだ。 先祖代々の墓所は祖母宅のすぐ裏手100ートル程の場所にあり、若くして亡くなった母方の祖父もそこに眠っていた。
「絶対転んじゃ駄目だからね」
墓地に入ると母や叔母が私たちに何度も声を掛けた。何故なら昔からその地域では、〝墓場で転んだのは死者に片足を引っ張られてあの世に呼ばれたという事で近いうちに死ぬ事になる、助かるためには墓場に片足を置いて行かなければならない〟といった言い伝えがあった故だった。だがそうは言っても片足を切断して置いていく訳にはいかないから、転んだ者の履き物の片方を墓地に置いて帰るのが慣わしだった。実際その場にも以前ここで転んだ誰かが片足の代わりに置いていった雨晒しのブーツが一足転がっていて、そのボロボロに風化した様が恐怖心に拍車をかけた。だから皆んな息を呑み、転ばないよう慎重に歩いた。
先祖代々の墓所に着くと、そこには既に祖母のための墓穴(はかあな)が掘られていた。穴は棺に沿った縦長の長方形で、あまり深くは無かったと記憶している。墓穴の横には土が大袈裟な程に高く盛られていた。それはちょっとした小山のような大きさだった。
墓穴に祖母の棺が納まると、僧侶による読経と共にまず親類男性たちからスコップで土をかけていった。数本のスコップは参列者たちに交代で渡され、私たちも親と一緒にスコップを持ち、棺に土をかけた。女性たちの中には”私にはできない”と言って声を上げ泣き崩れる人や、見ていられないと言って顔を伏せ震えている人もいた。それでも男性たちを中心に着々と作業は進み、やがて祖母の棺は見えなくなったが、土はさらに盛られていった。地面の高さを超えても土はかけ続けられて、ついには祖母の棺の真上には当時の私の身長より高いくらいの土山が築かれていた。それはまるでTVの時代劇に出てくる墓標のようだった。
祖母の上に盛り上げられた土山の墓前に竹筒を刺してそこに献花し線香を上げた後、私たちは帰路に着いた。私は祖母をこんな真冬の冷たい土の下に残して皆で帰るという事がとても恐ろしかった。
しかし、私にとって本当の恐怖はここからだった。

(後編へ続く)
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◾️イルリヒト
ひつまぶしをこよなく愛する自称音楽家
🎧配信情報⚡️
マヴォ『マヴォイスト』
(Apple MUSIC、Spotify、YouTubeMusic他、さまざまなサービスで視聴可能です)
東京アンダーグラウンドシーンにおいて長きに渡り各々精力的に活動を行って来た旧知4人により2023年に結成されたマヴォ (ex-因果,PIGMEN,DUDMAN,ex-NAMASTE,ex-The Slowmotions) 10代の多感な時期にライヴハウスで真正面から喰らったジャパニーズパンク&アンダーグラウンドミュージックの衝撃を髄に、そこからジャンルレスで浴びるように体験し続けて来た膨大な量の音楽を血肉とした独自の解釈で、世界に誇る日本発アンダーグラウンドミュージックのアップデートに挑み続けている彼ら渾身の1stフルアルバム 有りそうで無かった音がここにある
🎸ライブ情報🔥
今年3月のギタリスト脱退から4ヶ月後、新たに2名の新メンバーを迎えた新生マヴォによる公演活動開始致します
2026年7月12日(日)新大久保EARTHDOM
“SWARAGA presents”
詳細は追ってアナウンス致します!
乞うご期待
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◼️楽曲(アナログ&デジタル)制作,絵画(挿絵,イラストetc)制作,イベント出演(マヴォ,イルリピト,ソロ),他各種オファー及び問い合わせはInstagram DMまで