Vol.9 プレイリスト「悪霊退散」

 単行本3巻が出る前ぐらいから清掃の副業バイトを始めました。週5日、カワサキリペアの刺繍入りの作業着を着て働いてます。ビル、マンションなどの建物共用部分の清掃、備品の補充や交換などを1人で行う仕事です。漫画連載との両立に良い現場を紹介してくださるOさんは不動産屋を営んでおり、僕が前にいた補修会社に何度も依頼をした事がある方です。頼り甲斐のある優しい社長さんで、僕は本当に周りの人達との出会いに助けられていると感謝しています。

 平日の早朝、家の近くのビル清掃の現場に通っています。入居する会社が始業する前にゴミ袋を変えたり、床やトイレの簡単な掃除をしたり。本格的な清掃会社は定期的に入るみたいなのですが、僕の仕事は日常の維持って感じです。

 実は最近、仕事をする上で悩みがありました。

 YouTubeで心霊系の動画を視聴していたのですが、お笑いコンビ「ガンバレルーヤ」の体験談の余りの恐ろしさに、僕は完全にオバケ恐怖症になってしまったのです。

 始業前の暗いオフィスに1人は、確かに不気味な感じはあります。ですが今までは全然平気で、霊感も無ければ何かを見た訳でもありません。むしろ朝の労働は清々しいなぁと思っていたほどです。ただ困った事に一度怖く感じるようになると、何でもオバケに結びつけて考えてしまうのです。

 「ゴミが落ちてる。拾う。」だったのが、「ゴミが落ちてる。何故ここに…これは…霊のメッセージ」と思ってしまう。そうなってくるともうなんでもかんでも心霊現象です。今まで平気だったトイレも、ここに何かいるような気がしてきました。

 普段はノリノリな音楽をかけて作業しているのですが、曲中にこんな音入ってたっけ…と思う様になったり、西野カナの曲でさえ、「会いたい」とか「せつない」の歌詞が怖く感じる様になってしまいました。

 ここまでくると身体が疲れてるだけで、何かに取り憑かれてるのでは思ってしまう状態。

 僕はネットで検索し、霊視で占いを行う人が在籍する占い館を見つけて予約を入れました。

 お店の中の部屋に案内されると、そこにいたのはピンク色の作務衣を着た女性の方。僕は悪いものが憑いてないか霊視して下さいとお願いしました。占い師の方は目を瞑ります。そして、「視えました」と言って目を開けました。

 「悪い感じは無いですが、中年女性の生霊がいますね。」との事。

 オバケ恐怖症に陥ってる僕は、それはどんな人ですか!?いつ会った人ですか!?と詰めてしまい、占い師の方に「若い女性の生霊とかでは無くて、申し訳ないです」と謎な気の使い方をされてしまう始末。

 いてもたっても居られない僕はすぐに神社へ向かいました。

 神主さんに相談し、厄除けに効くという御守りをいくつか購入します。

 厄払いシールをカードキーケースとスマホに貼り、玄関と机にも御守りを飾り、作業着の胸ポケットにも御守りをしまいました。

 次の朝、氏神様の御力でコーディネートした僕は例の現場に向かいます。薄暗い7階のトイレ。照明がチカチカしていて不気味です。この場所が1番嫌な空気を感じます。ここだけ温度が低い様な…

 鳥肌が立ち、僕はアップルミュージックの自作プレイリスト「やる気」から曲を探しました。ロッキーのテーマからアニメソングまで、勇気が湧いてくる曲を大量に集めたプレイリストです。その中からある曲を見つけました。

 iPhoneから高揚感を期待させるイントロが流れ、曲は一気にトップギアへ突入します。

 「ぽいぽいぽいぽぽいぽいぽぴー!」

 何という事でしょう。あやまんJAPANが流れた瞬間、暗く重かった空気が一気に変化したのを感じました。あまりに突き抜けた曲のテンションに、怖がっていた自分がくだらなくて笑ってしまいます。さっきまでチカチカ不気味だった蛍光灯も、チャラ箱の照明に見えてくるから不思議です。これが音楽の力なのか。

 僕は確信しました。あやまんJAPANは悪霊に効く。

 悪霊って生命力に溢れた人には取り憑かないらしいんですよ。あやまんJAPANの曲なんて生命力の塊じゃないですか。それにもし人を怖がらせる霊がいたとしたら、かなり陰気な性格だと思うんです。あやまんJAPANとか絶対苦手なタイプ。だから本当に霊障に効果あると思います。

 僕は新規プレイリストの名前を「悪霊退散」にしました。二曲目にも生命力全開のT.M.Revolution「HOT LIMIT」、そして田村 ゆかり「You & Me」で光の彼方へ昇天させるという必殺のアゲアゲアッパーセットです。もし僕と同じ様に霊に怯えてる人がいたら、同じプレイリストを試してみて欲しいなと思います。

 ちなみに、霊感のある占い師に僕の漫画についても聞いてみたんですよ。

 「うーん、マニアックなものを詰め込みすぎてる様に感じます。」との事。

 間違いない。彼女は視えています。

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    金子・42歳・(株)カワサキリペアの補修職人。
    仕事はいい加減だが会社の仲間たちに助けられながら地道に暮らしている。
    「清らかで美しい社会生活」を掲げる清浄党が国家権力をほしいままにする中、金子はある日派遣されたマンションの異変に気づく。
    それは「人の絶望を食う」とされ、不当に虐げられてきた〝ゲモノ〟たちによる死闘の幕開きを告げるもので……

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