Vol.8「ゲモノが通す第3巻、発売です。」

 僕のスマホのロック画面は、サッカー女子日本代表である長谷川唯選手のinstagramをスクショした画像になっています。

 FIFA女子ワールドカップ2023、準々決勝のスウェーデン戦で敗退した日の翌日に更新された投稿です。

 なでしこJAPANが最高のチームだったという事、そして応援してくれたサポーターへの感謝が短い文章で綴られていました。

 そこにあった長谷川選手の言葉が、次の言葉です。

「結果を受け止めて、次へ。」

 数日前、僕は「堀北カモメのキラキラ通信」の過去の記事を消して欲しいと、担当編集者の中川さんにお願いしていました。

 自分の書いた文章が恥ずかしくてたまらなくなったのです。

 あんな事書かなければ良かった、どう思われるだろう。過去の自分を受け止める事が出来ず、消えてしまいたいと身動きが取れなくなっていたのです。

 前を向く事が出来なくなった僕は、こざかしい言い訳をしては、消した方がいいなどと御託を並べました。

 中川さんは、そんな自分のプロ意識の無さを注意してくださいました。

 僕は、惨めったらしく、卑怯な己を恥じました。

 長谷川選手のインスタの投稿を読んだ時、ああ、これが世界の舞台で戦うトップアスリートなんだと思いました。いつまでもウジウジしている自分を省みました。

 あの時こう動いていれば、あそこで失敗しなければ、スポーツ選手にはそんな想いが山程あると思います。 

 敗退が決まり泣き崩れる選手達の姿を見て、クーラーの効いた部屋で観戦していただけの僕も、しばらくボーっとなってしまいました。

 でも、どれだけ後悔しても時間は戻りません。言い訳を並べても、誰かのせいにしても、現実は変わりません。

 だから結果を受け止めて、賞賛も非難も羨望も嫉妬も全てを背負って、言葉を飲み込む。そして涙を拭って前を向く。

 超かっこいいなあって憧れます。

 こんな風になれたらなと思います。

 自分自身でコントロール出来ない想定外が起きるのが人生です。嘆いていてもそれは変わりません。

 だけど過去の事実は変わらなかったとしても、進む未来によって、過去の持つ意味は変えられます。今日の笑顔の為の涙に、解釈を変える事が出来ます。

 そして全力を出し切った果てに、その瞬間を見せてくれるのがアスリートだと思います。

 だから僕達はその背景にあるひとりひとりのドラマを想像し、感動するのでしょう。敗れたとしてもそこに向かって行った姿に、そして再び立ち上がる姿に、人生を重ねて涙を流すのでしょう。

 代表選手達はもうパリオリンピックに向かって走り出しています。

 日の丸を背負ってフィールドに立つ重圧。ひとり海外に渡り、欧州リーグでプレーする勇気と孤独。僕からは想像もできない場所で長谷川選手は戦っています。

「結果を受け止めて、次へ。」

 僕はこの言葉を紙に書き、机の前に貼りました。果てしない汗と涙を流してきた人の言葉です。プレーで証明するのがサッカー選手、その強さを感じます。

 自分が憧れた偉大な漫画家達も同じです。作品で証明するのが漫画家だと思います。結果を残せていない自分には、今はまだ何の説得力もありません。

 リイド社から、ゲモノが通す第3巻の見本本が届きました。

 中川さん、トーチ編集部の皆さん、リイド社の方々、装丁をして下さった井上則人デザイン事務所様、印刷所の皆様、物流の皆様、書店の皆様、関わってくださった全ての方々、そして何より、応援してくださる読者の皆様。沢山の人達の支えによって、紙の単行本として発売して頂けます。当たり前の事ではありません。心より、ありがとうございます。

 中川さんから初版の部数について、これから先の連載について、説明がありました。

 僕は静かに、「わかりました。」と答えました。そして、想いを分かち合いました。

 この本の売り上げがどんなものになろうと、どんな評価になろうと、結果を受け止めて、前に進みます。

 ゲモノが通す第3巻、9月28日発売です。よろしくお願いします。

お知らせ

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    痛みも、悲しみも、後悔も……俺がまとめてブッ直ぉぉおす!!!!
    元補修職人がブッ描く! 超絶職人バトルエンターテインメント!!!

    金子・42歳・(株)カワサキリペアの補修職人。
    仕事はいい加減だが会社の仲間たちに助けられながら地道に暮らしている。
    「清らかで美しい社会生活」を掲げる清浄党が国家権力をほしいままにする中、金子はある日派遣されたマンションの異変に気づく。
    それは「人の絶望を食う」とされ、不当に虐げられてきた〝ゲモノ〟たちによる死闘の幕開きを告げるもので……

    第1回トーチ漫画賞「山田参助賞」受賞! 『シシファック』作者が描く不撓不屈の物語!