和田永×まどめクレテック対談

ELECTRONICOS FANTASTICOS!」の和田永さんとまどめクレテックさんの特別対談です。和田さんは古い電化製品を「電磁楽器」へと作り替え、あらゆる人々を巻き込みながらオーケストラを作っていくプロジェクト「ELECTRONICOS FANTASTICOS!」(通称「ニコス」)の首謀者。まどめさんはその活動に大いに触発され、作中で特区独自の楽器「ウッディヤントラ」として電磁楽器を描いています。今回が初対面ながら、お二人の間には言葉を超えた〝共鳴と感電〟のコミュニケーションがありました。ニコスの楽器と演奏は本当に素晴らしく、ご老人も中高年も若者も子どもたちも、みんなついつい踊り出してしまう楽しくポジティブな活力に満ちています。オフィシャルHPでは動画も公開されていますので、対談と合わせてぜひご覧ください。
(構成=トーチ編集部)

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■まどめクレテック 『生活保護特区を出よ。』連載の1年前ぐらいに、テレナンデス(小型ブラウン管テレビを楽器にしたもの)を演奏している動画を見たんです。それがずっと記憶に残っていて、その頃から漫画に出せたらと思っていました。
実際に漫画に登場させると、エレクトロニコスのメンバーの方からツイッターのDMをもらったんです。その後ニコスのホームページやインタビューの記事を見て本格的に情報収集を始めたんですけど。
確かインタビューの記事で、和田さんが影響を受けたコンゴ共和国のミュージシャンの話があって…。

■和田永 コンゴ共和国に伝統楽器を電気化して演奏しているバンドがいまして。カリンバに電気のピックアップをつけて音がひび割れるくらい爆音で鳴らすんです。あるインタビュアーが伝統楽器を電気化して良いのか?みたいなことを聞いたんですよ。そしたら、彼らは「いや、むしろ神話のスピリットが電気によって増幅される。その方が先祖や神にも届く。」みたいなことを答えていたんです。
彼らは電気をあくまでも自然の一部であり、人智を超えたものとして捉えている。火、水、土、風の並びに電気がある、そこに僕はものすごく共感しました。自分にもそういう感覚がずっとあったんですよね。

■まどめ 私もその文章を読んで、「それだ!」って思ったんですよ。
最近はベトナムでも仏像が電気で光るし、日本の龍岸寺というお寺では、仏師の方が自作した阿弥陀三尊像を3Dプリンターで複製し、ドローンに載せて飛ばしているんです。
でもそれってあるべき姿だと思って。だって昔の人たちは仏の本当の姿をその時代の最先端の技術で表現しようとしていたから、今の仏は輝くべきで飛ぶべきだよなって思っていて。

■和田 そうですよね。僕はベトナムでそのビカビカ光る仏像に前提知識なく生で遭遇したんですよ。それが本当に衝撃的で。
町を歩いていたときに寺院から変な音が聞こえてきて、入ってみると線香が充満している奥でクラブみたいに仏像がビカビカ光ってたんですよね。よく見ると後光がLEDで七色に輝いていました。すごくサイケデリックなんですが、それに対して人々が祈ってるという凄まじい光景でした。
あとは電子音化された念仏が何パターンも入っている、ブッダマシーンと呼ばれる機械もあったんですけど。それを流せば自動で祈れるという。

■まどめ それ、元は多分マニ車に近いものですよね。

■和田 そうだと思います。信仰は古くから伝わるままに、テクノロジーによって謎に拡張されている。
そのとき僕は大学生くらいだったかな。すごく衝撃的で、現地でそのまま仏具店に走りました(笑)。そしたら仏具店がもはやLED電飾店のようになっていて。もちろんお香とかお守りも並んでいるんですけど、壁一面に光り物があって僕はそれを衝動買いしました。
そして日本に帰ってきて、まず何をしたかというと、仏像ではなく部屋に鎮座していたブラウン管をデコった。

■まどめ 最高じゃないですか!(笑)
マニ車の話もそうですけど、便利にしたかったらすればいいと思うんですよね。マニ車は当時の最先端の技術で念仏を回せば唱えられるようにしたのであって、それが今ブッダマシーンに移行しただけで、当然の流れだと思うんですよ。
『生活保護特区を出よ。』では、廃棄物が〝神様の恵み〟として尊ばれていて…という話にしていますが、それは昔の人たちが森から持ってきた木を「森からの愛だ」って言うのと一緒だと思ってて。現代の信仰として自然な流れで電磁楽器は登場するし、自然な流れで仏像はビカビカ光るし、ドローンで飛ぶのも当然なんです。
ニコスの皆さんの活動を見ていると、その〝当然感〟が私の感じているものとすごく近い気がしたんです。「家電って楽器だよな」っていうことがすんなり入ってきます。私の作品で楽器を出すなら絶対にこれだって思っていました。

■和田 嬉しいです。それで自然とペンが動いたんですね。

■まどめ はい。生活保護特区にある楽器が本当に伝統的な形のものだったら、素朴過ぎて落ち着かない気がします。特区で信仰されている宗教の歴史は長いものではないんですが、島の人たちは伝統だと思ってる。そういうめちゃくちゃな流れの中にも必然があって……という話の中に家電楽器が存在していると、すごくしっくりくる。

■和田 現実の家電楽器も、伝統的なビジョンがケミカル反応して生まれていますね。
僕は、現代は〝電気の時代〟という区分でもあるなと感じていて。ある時、古い家電って電気時代の妖怪や付喪神なんじゃないかと感じたんです。家電ってその時代の生活のニーズに合わせて生まれたものですけど、やがて時が経って需要からこぼれ落ちたときに、傘や桶のように妖怪になって現れるんじゃないか。突如、びびび–––––って声を発し始めるんじゃないか、というインスピレーションが浮かんできたんですよね。

■まどめ 百鬼夜行みたいですね。

■和田 ニコスは色んな人が参加して古い家電を楽器へと蘇らせるプロジェクトですけど、まさに百鬼夜行のイメージを夢見ていますね。
家電は一番身近なテクノロジーですよね。古いものはリサイクルショップとかにあるし、なんなら拾えるかもしれない。そう考えるとみんなが参加して創作できますよね。
そのうち電気への畏怖を表現する奇祭ができたら面白いんじゃないかと考え始めて、デザイナーやプロアマ問わないミュージシャン、普段は電機メーカーに勤めてるエンジニア80名くらいが徐々に集まって今に至るという。

■まどめ 私がニコスに出会った時点で、すごいく若い子やアマチュアもプロも参加していて、ごちゃごちゃな感じがいいなって思いました。私は皆さんの動画をめっちゃ観察してるんですけど、同じテレナンデスの形をしていてもそれぞれ音の鳴らし方が違うんですよね。多分、ベースにしたテレビが違えば、1個1個ちょっとずつ音の鳴らし方も変わってくるんだろうな、と思って。

■和田 なんなら個体差がすごいです(笑)。全部世界に1台しかない。

■まどめ 同じ音が出る楽器が1つもないんだろうなっていうのが伝わってきて。そういう〝めちゃくちゃさ〟がすごく良いなって思います。めちゃくちゃだからこそいろんなものを受け入れられる。家電楽器には懐の深さがあるのかなと思って。

■和田 教則本も前例もない、何も確立されていないので、広がってるのは完全に荒野(笑)。
ジャンルすらよくわからない未開の状態だからこそ、プロアマの垣根無く、ああじゃないかこうじゃないかって手探りでやれるのが面白いですね。
ちなみに家電の電磁波や電気信号をキャッチしたり、電気的な動作を生かして音を鳴らしていて、例えばブラウン管の楽器は静電気を拾って音を鳴らしています。理科の実験の延長線にあるような感じですね。

■まどめ それは楽器なのか?みたいなものも存在していて、でも音が鳴るから楽器だってことになっていて超素敵だと思います。昨年11月に名古屋で行われていたライブに、火災報知器の鐘みたいな楽器が出てきたじゃないですか。あれはお囃子の鐘(すり鉦)の進化系だと思って。確かにあの赤い火災報知器は鐘になるなって思いました。その発想がすごいなと。

■和田 名古屋で参加メンバーを呼び掛けたら、地元の中高生の子たちが自作の家電楽器をつくって集まってきて、そのうちの1人が火災報知器を背負ってきました(笑)。緊急時に、なるべく遠くに響かせるためのものなので、祭囃子の軸を担うには理にかなっている。さらに今は世界が非常事態ですし。

■まどめ あの鐘がお祭り感を一層高めていたと思います。

■和田 僕らは日本の伝統的な音楽も参照しながら演奏しているんですけど、やっぱり古い電化製品は民俗楽器なんじゃないかって思うんです。僕は「電磁民族楽器」って言ったりしてるんですけど。

■まどめ そうなんです! 家電楽器には〝民俗楽器感〟があって、それで漫画に出したいと思ったんです。

■和田 シンクロニシティしていますね。
南米のトリニダード・トバゴにスティールパンっていうドラム缶を使った楽器があります。100年くらい前、トバゴでは民衆の暴動を防ぐために〝金属の棒を使うパーカッション〟が全面的に禁止されたことがあって。でも石油とかを輸出してるエネルギー産業国だから、生活空間の中にドラム缶がいっぱいあったんですね。楽器禁止されたからドラム缶しかないだろ……と気づいて叩き始めたという。
「それ、やば」って思ったんですよ。彼らは〝今ここにあるもの〟を材料にして音楽をやる。目の前に古びた機械とかの文明の遺物が転がっていたら、それで音楽を始める種族が現れるんだろうなと思うんですよね。この『生活保護特区を出よ。』の世界でも、自分達のもとに流れ着いた廃家電が「ウッディヤントラ」として楽器になっている。

■まどめ 生活保護特区にはゴミ処理場が多分あって、そこに運ばれてくるものや、みんなで集めたりもらってきたものを楽器にするっていう設定で描いています。その土地の音楽を弾くのであれば、その土地の楽器で弾いてほしい、特区ならではの楽器がほしい、と思って……

■和田 やっぱり生活保護特区特有のものと言えば廃家電なんですね。
「廃家電は神の恵み。有効活用しないとバチがあたる」というリンドウの台詞は胸熱でした。隔離地帯でモノは有効活用するしかないだろ……となって家電を弾く。

■まどめ そうですね。流れてきたボロボロの楽器はあるかもしれないけど新品のものは絶対ない。それでも閉鎖されたあの島の中で家電楽器を弾いていたらかっこいいなって。
あの島の人たちは扇風機が楽器になるってわかってる。だから扇風機が壊れたら放送局に持って行く人がいるし、放送局に「家電壊れたからトラック回してくれない?」みたいな連絡もするはずです。第6話で登場した電気屋のおじさんも、プロの立場でウッディヤントラ作りに協力している。そういう人たちも島中にいっぱいいて。

■和田 楽器を作るには電気屋が重要ですもんね。

■まどめ そうなんです。作中ではまだ放送局の人たちしか出てないけど、日の出まつりのシーンでは親戚のおじさんや近所の兄ちゃんが自作した家電楽器を持ってきてるからそれぞれ形が違うんです。放送局の女の子が持ってるウッディヤントラの形は登場するたびに毎回違うんですけど、その子が楽器をたくさん作ってて、曲によって変えている設定なんです。
ゴミになるはずだったものに個人個人の愛着が移っていくのが良いですよね。多分あの世界では、本土にいる人たちはピカピカの楽器を買ってそれがお気に入りになるんだろうけど、特区にいる人たちは自分の家や近所の家にある家電を見て「あれが壊れたら私が楽器にするんだ」って考えているんだろうなって。
ウッディヤントラはまだ若い文化かもしれないけど、その土地の人たち1人1人が大切に思って愛してることが一番文化を文化たらしめるところなのかなと思っているから、だから(電磁楽器は)民俗楽器であってほしい。

■和田 漫画を読んでて全然物語の中という気がしないっていうか、手触り感やリアリティをすごく感じました。
僕はヒップホップのカルチャーにもすごく影響を受けてるんですが、絶望的な貧困が広がる70年代のニューヨークの黒人居住区からヒップホップが生まれたことも思い起こしました。これまた限られた資源の中で創造性が爆発していますよね。盗んできたターンテーブルと街灯から引っ張ってきた電気でDJパーティをやったという話です。
生活保護特区という一角に独自文化が根づいている様子や、登場キャラクターそれぞれが何かしらの問題を抱えながら「最悪の状況の中からそこにあるもので何とか楽しいことやろうぜ」というマインドにシンクロを感じました。

■まどめ あー、超嬉しいです! ありがとうございます!

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■和田 いずれ練り歩きのお祭りをやりたいな…と思っていた矢先、最新話に現れた「日の出まつり」ですよ!現実より先に漫画の中で家電山車が出航し始めた!

■まどめ 絶対山車に乗せたかったんです!

■和田 僕らは、お祭りについて2人で話し合ったことないですよね。そもそも今日初めてお話する。何も会話していないのに山車が動き始めたじゃないですか。
多分、漫画で日の出まつりのことが描かれているくらいの時期に、ちょうど僕も次の企画プレゼンのために山車の絵を描いていたんですよ。やっぱり百鬼夜行のイメージがあったので練り歩きたいと思って。

■まどめ 山車がないと練り歩けないですもんね。祭りって踊りながら動いていくものですし。
地元の小さな祭りでも、バイブスが最高になってるときがありますよね。山車の上で団子が配られたり焼きそばを食べたり。そういう生活感みたいな要素もありつつ、でもみんなで参加して最高なんだよね……っていう気持ちが、日の出まつりの原動力になってるというか。
日の出まつりはよく「文化祭っぽくて楽しそうでいいね」って言われるんですけど、はたからはチープに見えても、それは色んな人が全力で楽しもうとしてる証拠だと思うんですよ。盆踊りがトップアーティストのアートだったら、踊れない人たちは参加できないけど、チープさがあるってことはそういう人たちのバイブスも乗っかってるってことだから。
だから和田さんから山車の話が出てきたときに、同じこと考えてる!と思って嬉しかったです。

■和田 いやむしろ僕は焦りを感じました(笑)。「やばい、漫画の世界ではもう祭りが始まってる!」って。だから現実で追いつかなきゃと思いましたね。先日、名古屋城で行ったライブパフォーマンスでは、山車は無理だったので4トントラックを借りて、荷台にやぐらを組んで演奏しながらエンジンを使わずみんなで人力で引いたんです(笑)。これまた〝手に入るもの〟で創作した感じでした。

▶︎Photo by Mao Yamamoto
ELECTRONICOS FANTASTICOS!「名古屋城電磁行列」「ストリーミング・ヘリテージ 2022」でのパフォーマンス

■まどめ トラックを改造して最高にしちゃうのも良いですよね。生活保護特区の山車は多分、元々その地域で使っていたものが廃れてきたところにウルの宗教が入ってきて、山車があるから使っちゃおうってなったものだと思っていて。

■和田 ウルの神様は持たざる者の象徴なんですよね。あの島では持たないことが徳になってるっていう設定が素晴らしいと感じました。

■まどめ そうですね。生活保護特区の人たちは大体みんな何も持ってなくて、持ってる人にたかる生活スタイルで暮らしてます。ウルの宗教の価値観は、たかってくる人がいないと色んな仕事や生活が回っていかないからこそ広まったと思って描いていて。
神話って道徳みたいな部分があるじゃないですか。神話として「ウルも何も持っていないし、持ってない人は偉いから大切にしないといけないんだよ」みたいな道徳が特区に定着していった。

■和田 実際にありそうな考え方っていうか、必要な考え方のように感じました。

■まどめ みんなウルの狂信者ではないから、持ってるものを全部捨てて徳を高くしたい人はいないんですよ。
自分が全部持たないのは無理だけど、持ってない人を受け入れてちょっと助けると自分も良いことした気分になって成立している部分があると思います。持ってない人を受け入れるために神話がある。

■和田 ほどよい民間信仰として、他者を受け入れて共存するために神話が存在しているんですね。

■まどめ そうですね。特区の人たちがあの島の中で生き延びるために、色んな宗教の都合がいいところをめちゃくちゃにぶち込んでる宗教だと思います。

■和田 「日の出まつり」を見たときに自分が妄想していたこととシンクロしたので驚きました。家電楽器を通してやってみたいことっていうのが、音だけではなくて場や空気を大切にする祭りのようなものだったんです。そこには誰かが使っていた、今役割を終えようとしている家電が別の人の手に渡って楽器として存在している物語があって。
僕はそんなに漫画を読んできませんでしたが、物語は大好きなんです。物語のジャンルとして、『生活保護特区を出よ。』はディストピアを感じるのですが、SFの世界でもディストピアが出てきた時代と今僕らが使ってる家電が活躍してた時代って、一致しているんです。

■まどめ そうですね。特に「科学最高だぜ」っていう雰囲気があった時代は。

■和田 そうそう。僕はあの時代をリアルタイムに追っていたわけではないけど、70年代までは科学の力で未来が明るくなる予感を随所に感じるんですよね。
でも80年代くらいから朽ちゆく未来の意識が漂ってきて。ひょっとしたらこのまま格差や差別も解決せずにテクノロジーだけが発展していって、しかもそのテクノロジーが是正には全く役に立たず、むしろ分断を広げたり支配を強めていくというディストピア概念が生まれてきたと思うんです。
そうした流れにもこの漫画はシンクロしてるかなって思ったんですけど、じゃあそのディストピアを舞台に〝どう踊るか〟がひとつのテーマになっているのかなって。

■まどめ 現代の人にも踊ってほしいですよね。人と仲良くなれとかではなく、ただ同じバイブスで踊り狂えばいいじゃんって思うんですよ。孤独になって辛いのはわかるし孤独なことはたくさんあるけど、そこでダウナーになるんじゃなくて、もうどうでもいいや踊れみたいな。

■和田 実際お祭りって災害の後にやってくるって聞いたことがあって。まさに今現実の世界がディストピアもディストピアですよね。震災があって、コロナ禍が来て、気候変動や格差が広がり戦争も始まって。絶望しながらも、祈る。

■まどめ この漫画の世界観をディストピアだと思って描き始めたわけではないんですが、楽しいことが何もない日常でも楽しいことはあると思うんですよね。
既存のディストピア漫画はシリアスすぎたり寂しすぎるものが多いんですが、実際は意外とそんなに寂しくもなくて。たまに災害や疫病の流行が起きて最悪な状態になるときはあるけど、それ以外は普通の日常がただあるっていうことを描きたくて始めたので、家電楽器はその日常や生活の中から生まれた感じがすごくあるからマッチしたのかなと。生活から生まれたもので、生活と一緒に踊るみたいな。そういう楽しさを描けたらいいなって。

■和田 特区では出自が全然違う人が集められてアパートで共同生活してますもんね。〝みんなで集まる〟という意味では僕らニコスとも近い気がします。

■まどめ 確かに、神田明神でのニコスのライブで周りを見渡していたら、音楽に詳しくてニコスが好きっていう人もいる中で、参加してる子の友達だから来たっていう人や、ただ近所でやってるからという理由で来る人とか色んな方がいるなと思いました。

■和田 客層はカオスですね(笑)。家電を寄付をしてくれた人が観に来たこともあります。

■まどめ 音楽やアートとかに詳しい人だらけの空間よりも、友達が出てるから見に来た、みたいな人がいるのが良いなって思うんですよね。

■和田 そうそう、お祭りってそうですよね。「山車の上にいるの、私の息子!」とか言ったりして(笑)。

■まどめ 「その人じゃなきゃいけないことがあまりない」という点もニコスと似たようなところがある気がします。日の出まつりでフーカが話手に任命されるんですけど、あれは別にフーカじゃなくてもよくて別の人がやっても良いんです。お祭りってそれぐらいの空気感なんですよね。
ニコスのライブでも、この人がここに立ってないと演奏が崩壊するみたいなことは多分起きなくて、でもその代わりに誰かが飛び入りで乗り込んでも盛り上がって丸く収まるような感じが私はすごく好きなんです。

■和田 飛び入りは、よくありますね(笑)。
それと名古屋のライブが終わった後に本当に久しぶりに参加メンバーと食事に行ったんですが、中学生から親世代の方まで集まったんです。家電というものを中心にして集まった不思議な集団で、親戚の集いのような空気感すらあったんです。家電楽器を製造し演奏する家業を行う架空の家族のようでした(笑)。

■まどめ みんな親戚のおじさんぐらいの距離感で(笑)。

■和田 そんな距離感でも、お互い普段は何をしているのか知らなかったりします(笑)。
実のところわからない同士だけど、でもどこかでバイブスが共有される瞬間があるんですよね。

■まどめ 第8話では嵐の日にみんなで部屋に集まって雑魚寝するシーンがあるんですが、ああいう感じですね。みんなで畳の上で寝るっていうバイブスがあれば、別に意見とか考えとか違っていても良い。真剣に話したら喧嘩して絶交するかもしれないけど、でもとりあえず祭りがあったらみんな祭りに来るし、集まってお酒飲むし、それでいいかなみたいなところがあります。

■和田 ところでマントラアーヤに移住するフーカを見送るシーンで、お父さんが「想像の共同体」という本を差し出しますよね。その心は…。

■まどめ 「想像の共同体」はざっくりいうと近代の国民国家についての本で、特に「出版物の発展がそういった共同体の形成に深く関わっている」ということなどが書いてあります。出版物が人々にいきわたって、そこから人々が「国民」や「国家」という大きな枠組みに自分が属している、と想像することで共同体が出来上がっているというような。象徴的な本なので、作中に出したいなと思ってあのシーンで登場させました。
生活保護特区という地域のコミュニティはこれとはシステムは似ていますが少し違う、宗教共同体っぽい面も描こうと思ってこれまで描いてきました。
私は生活保護特区で生活している人々がひとつ民族を形成しているとも考えているので、そこで奏でられる楽器は民俗楽器であってほしいと思っています。

■和田 ちょっと話が逸れるかもしれないんですが、僕らが演奏している家電楽器はチューニングが国際基準のラ=440Hzとは異なるんです。例えばテレビは1秒間に60フレームの電気信号を送っていて、その倍数の480Hzがクリアに鳴る基準の音程だったりするんです。僕らはそこから音階を考えたりしているので、何千年もの時をかけて人類が音階を発見してきた過程を再体験している感覚もあって、超原始的な「一音出た!」でうっほうっほ喜んだりしています。
だからもう生活保護特区にいるんですよ、僕らは(笑)。みんなで開拓していくのが楽しいし、そのときに別の意味での「想像の共同体」が立ち現れてくる。
最近海外の方からも家電楽器の作り方について問い合わせがくるんです。自分の国の家電で楽器を作って南米のリズムで叩く人が現れたり。各地に散らばった電磁族です(笑)。

■まどめ ひとつの文化の元に新しい民族が産まれてる感じですね。

■和田 まだ実際には会ったこともなくて。でもブラウン管好きならブラザーでしょ!って言い合ってます。生まれも育ちも違うしいろんなトラブルも起きるけど、「その瞬間踊ろうぜ」みたいなバイブスは通じてる感覚があります。

■まどめ 人とバイブスを合わせたいっていう気持ちとかグルーヴ感のようなものですよね。最悪のことが起きて予定が大幅に変わってしまっても、どうにかなるというか。
実は私も家電楽器で演奏してみたいなって思っているんです。さっきのお話を聞いて私も自分の奏法を獲得したいって思いました(笑)。

■和田 良いですね、是非トライしてみて欲しいです。基本的にニコスはみんなが好き勝手やってるゆるくてニッチなコミュニティですね。少しづつ知られるようになってきていますが。

■まどめ 最近はテレビにも出演されてますもんね。私の家にはテレビがないので「見たいのにな…」っていつも唇噛み締めています。

■和田 いやいや、テレビは見るものじゃなくて、弾くものですから(笑)。

お知らせ

  • /////第3巻10/27発売/////

    ここはスラムか楽園かーー

    最高潮を迎える「日の出祭り」。

    隣人たちに寄り添い寄り添われるほど、フーカは特区(ここ)を去りがたく……

    貧困・差別・格差……この国の“もうひとつの姿”を圧倒的リアリティで描く癒しと革命の物語。

    【生活保護特区】生活能力に乏しく自立困難な者を国が保護する区画。俗称マントラアーヤ。

    ★宝島社『このマンガがすごい!2023』オトコ編 第11位ランクイン作品