推薦文 石黒正数

『宙に参る』
読み始めると不思議な感覚に陥る。
なんだなんだこの感覚は。未知の感覚だが確かに知っているぞと探りながら読み進めるうちに気づいた。
SF小説を読んでいる時の感じだ。
文字の、文章の、小説だ。
今、『宙に参る』の漫画を読んでる僕の脳波を測定したらSF小説を読んでいる時の部分が活性化しているに違いない。

SF小説とは特殊なジャンルで、例えばそれは軌道エレベーターだったり、巨木をくりぬいて住居にしている西暦3000年代だったり、それとも水しかない惑星、星の自転を利用した発電所、はたまたコロニーで農園を営むザリガニに似た異星人…。
こちらが想像で補わないといけない絵のハードルが高く、ある程度の慣れや見識が無ければ、それは悪い夢でも見ているかのような得体のしれない読書体験になりかねない。
あの感じに似ている。
しかし『宙に参る』はその点、安心だ。
漫画だから、作者が絵を描いてくれている。

そうか、SF小説のような読み味の漫画の再現は可能だったのか。
SF漫画じゃなくて、SF小説のような漫画。
おそらく作者が持つSFの素養がこうした形を実現したんだと思う。
SF者の間での「あのSF作品を読んだ」という名乗りは、難しい設定、よくわからない物理原則、見たこともない星での生活、様々な難題をどうにか咀嚼したつもりになって、それでもまるっきり見当違いの理解をしているかもしれないという不安で震える足を踏ん張って、やっと言える。
だからSFは厄介なのだ。

『宙に参る』を読んだなら、言っていい。
「SFを読んだ」と。
漫画だからそれが手軽にできる。

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