土の上 26
宮崎信恵
新しい年が始まった。カレンダーを貼るはずの壁の空白がささやかに準備足らずの始まりを感じさせる。カレンダーはいただきものをいくつかと、JR西日本の販促用のものが気に入っていて、毎年一月に入ってからオークションなどで安く購入している。益子在住の絵本作家・いわむらかずおさんの14ひきのねずみのカレンダーもお気に入りで、宇都宮に住む兄家族がよく送ってくれる。毎月新しいページをめくるのが楽しみだ。
部屋で育てているアボカドからもやっと芽が出てきて、こんなところにも小さな始まりがあるのだな、と気付いた。
とは言っても日々に変化はなく、年末から帰省していた妹が帰ってからはいつも通りの気楽で寂しい二人の生活が戻ってきた。誰かと一緒に過ごした後に残る寂しさは、日ごとに薄まって日常に溶けていく。今日も明日も平凡な一日が終わっては始まって、そうした繰り返しにいくらか救われているような気もする。
休みの間にしようと思っていた編み物は、結局のところセーターの片袖分くらいしか編めなかった。遠くへ出かけたり、来客があったり、春に出版予定の絵本の制作に取り掛かったりして、休暇はあっという間に過ぎていった。
子どもと一日中一緒にいると、なかなか仕事が進まない。途切れ途切れのあれこれを毎日少しずつ片付けて、そういう連なりで今年も暮らしていくのだろう。
ああ眠たい。お腹が空いたな。肩が痛い。いい天気だな。寒すぎる。暑い。暑い。暑い。月がデカい。ママの机のおもちゃ片付けて。はー疲れた。君に会いたい。目が痛い。行ってらっしゃい。おかえり。ムカデ!肩痛い。宿題した?ブシュブシュ。何それ?静かにして!おいしい。すごい。ありがとう。何が食べたい?それいいね。面倒くさいな。ちょっと寝る。よく知ってるねぇ。いい匂い。美味しそう。もう嫌だ。大好き。またね。早くして。ちょっと待って。おはよう。おやすみ。また明日。よろしくお願いいたします。今年もよく言うであろう言葉とたくさん言いたい言葉とを強引に抱負に代えて。
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《著者プロフィール》
宮崎信恵(みやざきのぶえ)
1984年徳島生まれ。
STOMACHACHE.として妹と共に雑誌などのイラストを手がける。
その他、刺繍・パッチワーク・陶芸・木版画・俳句・自然農を実践する。
http://stomachache.jp
http://nobuemiyazaki.tumblr.com