土の上 31
宮崎信恵
月に数回、図書館へ行く。娘は本が好きで、娯楽の少ない我が家においては図書館は身近な楽しみの一つになっている。
今日は初めて徳島駅前の図書館に行く機会があった。綺麗な館内は本の種類も多く、DVDに並んでVHSのビデオの貸し出しもされていた。ビデオがどんどん姿を消す昨今ではあるけど、未だにうちのテレビデオは現役で活躍している。そのため、図書館やリサイクルショップなどでビデオを見つけると無性に嬉しくなってしまう。図書館に通うために月に何度か街に出てくるのも悪くないかもな、と思った。
家から最寄りの図書館は、決して蔵書数が豊富とは言えず、館内のコンピュータ検索で目当ての本がヒットしないことも少なくない。また、写真集コーナーではある一人の写真家の作品集だけがやけに沢山並んでいて、この写真家を愛する何者かの気配を感じる。それでも、行く度に借りて帰りたい本が見つかるのだから、それで十分なのかもしれない。
うちの家はクリスチャン家庭だったため、毎週日曜日は教会へ行っていた。どういう趣向だったのか、時々車をかなり走らせて遠方の教会へ行くこともあった。その帰りによく行くのが図書館だった。
日曜礼拝がどんなに退屈でも、私たち兄弟には教会へ行かないという選択肢はなかった。生まれた頃から日曜の朝に家族で必ず行く所、と決まっていた。そうして嫌々行っていたから、帰りに図書館へ寄ったり、中華料理店で食事したり、街の大きなショッピングモールで買い物をする、というような礼拝後の快楽が日曜の午前中をやり過ごすための支えとなっていた。
母は図書館に詳しかったのか、ずいぶん色々な図書館へ連れて行ってもらった。記憶の中の図書館は全て例外なく広くて立派だ。きっと当時の自分が小さかっただけで、今訪れたら何の変哲もない普通の図書館なのだろうけど。気になる本をいくつか見つけては、家族や知らない人の隣に空いている席を見つけて座り、自分だけの本の世界に没頭するのが好きだった。
そして、もう一つ楽しみがあった。うちはゲーム禁止の家庭だったけど、図書館のコンピュータゲームは遊んでも咎められることがなかった。それを良いことに、ある図書館では行く度にコンピュータのブースに入り浸って、姉妹で『おかしなマザーグース』というゲームに夢中になっていた。つまらない礼拝後の『おかしなマザーグース』は異常に面白かった。
本は好きだったけど、聖書にはどうしてものめり込めなかった。読めば読むほど疑問が湧き、説教を聞くとまた疑問が深まり、妙な反発心さえ抱いた。牧師家庭に生まれたという境遇がまたそういう気持ちを助長させていたのかもしれない。人の信仰を否定はしないけど、誰もが親と同じような信仰を持てるわけではないのだ。教会から離れていった自分を両親がいつまでもとやかく言わなかったことには感謝している。
中学・高校・大学時代も図書館へはよく行った。私の通う高校は家から片道一時間はかかった。その長い通学電車の中でよく本を読んだ。カバンの中には重たい教科書と共に図書館で借りたハードカバーの本が常に入っていた。電車の中で開いた本たちが、どれだけ私の通学時間を豊かにしてくれたことだろう。
今夜も枕元に小さな明かりを灯し、布団の中で少し本を読んでから寝るとする。
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《著者プロフィール》
宮崎信恵(みやざきのぶえ)
1984年徳島生まれ。
STOMACHACHE.として妹と共に雑誌などのイラストを手がける。
その他、刺繍・パッチワーク・陶芸・木版画・俳句・自然農を実践する。
http://stomachache.jp
http://nobuemiyazaki.tumblr.com