土の上 40

 朝、まだ眠たくて布団の中にいると、外からキジの鳴き声が聞こえた。ここに引っ越して来て以来、家の付近で鳴き声を聞き、時々その姿も見かける。朝キジが鳴くと雨が降る、と言われているらしいけど、確かに今日の予報は曇りのち雨だ。そんなことは関係なしにただ鳴いているだけのような気もするけど。
 続いて鶯の鳴き声も聞こえてくる。「ホーーーーーホケキョッ」と何度も気持ち良さそうに鳴いている。これでもか、と長く伸びる「ホーーーーー」に対して、「ホケキョッ」は短く早口に締めくくられる。その緩急が聞いていて心地良く、何度でも鳴いていいよ、と思う。
 朝食後に娘が外で遊んでいたので、私も出て行ってアスパラを収穫する。すると、空から何かが降ってくる。ひとつ手で掴むと、よく庭に落ちている小さな枯れた花の房で、奥の林の背の高い木から落ちてくるらしかった。あとでこの木の名前を調べようと、その房をアスパラと一緒に部屋に持ち帰る。アスパラの切り口からは水分が滲み出てきて見るからに瑞々しい。
 玄関先のモッコウバラもやっと咲き始め、娘がその花を指輪に見立てて遊んでいる。満開になったら、父の言葉を借りると「見に来てほしいくらい綺麗」になる。
 畑ではあちこちでルッコラの白い可憐な花が咲き、ソラマメは花が落ちて小さなさやを付けている。ほうれん草は薹が立ち、レタスなどの葉物は一段とボリュームを増した。暖かくなるということはすごい力があるのだな、と思う。
 今日は雨が降って春の嵐になると聞いていたから、まだ穏やかなうちに出かけることにした。裏の路地を走ると、黒猫がすごく狭い隙間に入り込んでいくのを見た。助手席で同じ瞬間を目撃していた娘と二人で驚きの感想を述べ合った。そういえば、この道はよく猫が出るから「猫道」と呼んでいる。猫道を進むとリードを引きずって走るコリーに遭遇する。「今日は不思議な日だね」と娘が言う。
 カーステレオから「春風」という曲が流れて、今の気分にピタリとはまった。だんだん空が暗くなり始めてこれから雨が降りそう。車の窓辺で春風を見ている娘を横目で見る。風に吹かれて、木々がいつもより激しく葉を揺らしていた。

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《著者プロフィール》
宮崎信恵(みやざきのぶえ)
1984年徳島生まれ。
STOMACHACHE.として妹と共に雑誌などのイラストを手がける。
その他、刺繍・パッチワーク・陶芸・木版画・俳句・自然農を実践する。
http://stomachache.jp
http://nobuemiyazaki.tumblr.com