行けたら行きます 1

 今日から石田さんの抗がん剤治療が始まる。友人の鈴木くんと慶くんがお見舞いに来るというので時間を合わせて病院へ行く。二人はステッカーでのドネーションを企画してくれていて、トータルで100万円ほどが集まったという報告をしてくれた。

 昨日、私は久々にライブを見に行ったが、そのことを石田さんに言うと「いいなあライブ、随分行ってないな」とつぶやく。それもそうだろう。先月半年ぶりに出たマンスリーのDJイベントも、今月は体調が悪くまた休むことになった。家にいる時はCDなんかの断捨離をしつつ、体調がいい日は這々の態で新宿や池袋までレコードを買いに行っていた。寝ながら爆音でレコードを聞いていたのを思い出す。今日も頼まれて代わりにアマゾンで注文し、届いたCDを病室に持ってきた。最近買ったのはSALUとBob Marley &The Wailers。CDに巻かれているビニールがうまく破けないと言うので毎回代わりに破いてやる。前回の抗がん剤の副作用で、爪が薄くなったと言い、それが思いつく限りの唯一の副作用なのだとか。
 曽我部さんから次に出るサニーデイのアルバムにフィーチャリングでラップを頼めないかという相談があった。やってほしいと思ったものの、厳しいであろうこともわかっていた。石田さんに伝えると「難しいなあ。体力がない。一子からも今の衰弱っぷりを説明してくれると助かる」と言う。曽我部さんにその旨伝えると「無理なこと言ってすみません、しかし、心配です・・・」と返事があった。石田さんのツイッターを見る限り、そこまで調子が悪いとは思わなかったのだろう。残念だが仕方ない。案外声は出るのだが、ラップをするとなると難しいように感じる。この前の娘の誕生日も、ハッピーバースデーを歌うのに声が震えていた。
 お見舞いにきた鈴木君と慶くんと音楽の話で楽しそうにしている。石田さん、寡黙なイメージがあるが、自分の興味のあることはよく喋る。私と二人でいる時のほうが話題に困り、案外二人で黙り込んでいたりする。気を使ってしゃべっているわけでもないのが石田さんらしい。鈴木くんが石田さんのこれまでの音源のインスト集を出したいと言い出した。石田さんも嬉しそう。実現するといい。

 抗がん剤の点滴が始まったが、今回も特に異常なし。ただ、トイレは石田さん用の個室があてがわれた。前回はそんなこと一切なかったのだが、ここ数ヶ月で厳しくなったらしい。なんでも、おしっこから放射線が出るとかなんとか。病室の前のトイレには「指定された方のみ使用可能」という紙が貼られていたが、お見舞いに来たらしきおばさんが普通に入っていった。

 家に帰ると石田さんの国民年金の請求書が届いていた。そのまま捨てた。

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《著者プロフィール》
植本一子(うえもといちこ)
1984年広島県生まれ。
2003年にキヤノン写真新世紀で荒木経惟氏より優秀賞を受賞、写真家としてのキャリアをスタートさせる。広告、雑誌、CDジャケット、PV等幅広く活躍中。
著書に『働けECD―わたしの育児混沌記』(ミュージック・マガジン)、『かなわない』(タバブックス)、『家族最後の日』(太田出版)がある。
『文藝』(河出書房新社)にて「24時間365日」を連載中。
http://ichikouemoto.com/