行けたら行きます 最終回

 お気づきでしょうか。前回の原稿、とうとう石田さんのことが出て来ませんでした。
 この連載は、石田さんの闘病中から始まりました。元々、石田さんは自分の興味のないことに発言することはなく、なんでもないおしゃべりというのが一切できない人でした。寡黙も寡黙という感じで、我々夫婦はほとんど会話をしなかったのですが、唯一、お互いの原稿を通して相手の考えていることを知り、静かなコミュニケーションを取っていたように思います。あまり喋らない石田さんとの、最後の会話の場となっていたのは、この連載だったのかもしれません。亡くなる直前には、そんな会話さえ休載という形で放棄していたのですが、亡くなってから再開したのは、石田さんとまた話がしたくなったからかもしれません。
 私はつい先日海外出張から戻り、目下執筆の真っ最中という感じです。きっとすぐに、詳しいお知らせもできることかと思いますが、私が不器用なこともあり、一つのことに集中すると他のことが手につきません。この連載も切りのいいタイミングかもしれないということで、今回で終了させてもらうことになりました。最近は納骨のことばかり気にしていて、海外出張が終わったら!と考えてはいたのですが、帰ってきたら帰ってきたで原稿から生活のことまでやらなければいけないことはいくらでもあり、もういっそ一周忌でもいいかな、という気分になってきました。納骨しないからといって怒る人ではないし、ここは最後の最後まで石田さんに甘えさせてもらいたいと思います。生きていくっていうのは、そういうことの繰り返しのような気がします。
 この連載の機会を与えてくれた関谷編集長には、公私ともにいろいろな局面で助けてもらいました。もともと付き合いの長い古くからの友人だったのですが、こんな風に一緒に仕事ができたことが何より嬉しかったです。この連載があったことで石田さんとの会話を続けることができました。連載終了を決めた時の寂しそうな顔が忘れられませんが、また打ち合わせと称してお茶でもしましょう。
いろいろ落ち着いたら、石田さんには原稿を通してまた話しかけようと思っています。不思議なことに、石田さんがいなくなってからの方が、石田さんとうまく付き合えている気がします。これからはさらに周りを巻き込みながら、楽しく暮らしていくつもりです。私は今、とても幸せです。
 読んでくださっていた皆さん、またどこかでお会いしましょう。ありがとうございました。
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《著者プロフィール》
植本一子(うえもといちこ)
1984年広島県生まれ。
2003年にキヤノン写真新世紀で荒木経惟氏より優秀賞を受賞、写真家としてのキャリアをスタートさせる。広告、雑誌、CDジャケット、PV等幅広く活躍中。
著書に『働けECD―わたしの育児混沌記』(ミュージック・マガジン)、『かなわない』(タバブックス)、『家族最後の日』(太田出版)、『降伏の記録』(河出書房新社)がある。
『文藝』(河出書房新社)にて「24時間365日」を連載中。
http://ichikouemoto.com/