Vol.3「女に泣いてるとこ見られたくねぇだろ」

サブタイトルは「ゲモノが通す」作中の火村さんのセリフです。実はこのセリフは昔、僕が実際にある人からかけて貰った言葉なんです。

それが中学生の頃に憧れていた先輩、不良のKくんです。

Kくんは僕の一つ上の先輩でした。

中学1年生の僕からしたらKくんは年齢よりずっと大人びて見えました。

私服も田舎のヤンキーファッションとは違い、ダブルのライダースにダメージジーンズ、エンジニアブーツを履いたKくんは身長も高く、中学生離れしていました。すっごく格好良かった。

Kくんからスカジャンとスタジャンは全然違うものである事、501がボタンフライで505がジッパーフライである事、レザージャケットにはSchottやvansonというブランドがあってめっちゃ高いという事など、ファッションの知識を沢山教えて貰いました。

Kくんはバイクや車も詳しくて、バンドも組んでいました。音楽、カルチャー、思春期の僕は多大な影響を受けました。

Kくんの真似をしたくてお母さんにトランクスを買って貰い、それを見えるぐらいに降ろして学校の指定ジャージを履いていました。

「ゲモノが通す」の作中で少年時代のノブオが金子に憧れる描写がありますが、もうあのまんまのイメージです。

ある日、ヒョロガリの癖に生意気だった僕は、大勢の生徒が見ている前で先輩にボコられてしまいました。

女子も見ていて恥ずかしいし、痛いし、情け無いし、13歳の僕は涙が止まりません。泣きたく無いのに、涙がポロポロ溢れてくるのです。

その時、僕の肩を引っ張ってその場から連れ出してくれたのがKくんでした。そのまま掃除用具のある物置に僕を押し込み、Kくんも中に入り扉を閉めました。

「女に泣いてるとこ見られたくねぇだろ」

Kくんはそう言って、僕が泣き止むまで物置の中で一緒にいてくれました。

泣きたく無いのに、涙がポロポロ溢れてくるのです。

中学を卒業してKくんに会った時、Kくんは暴走グループに入っていて、チームの仲間に入れてもらったというタトゥーを見せてくれました。その頃の僕はスケボーやストリートカルチャーに夢中になっていて、好きな音楽やファッションももうKくんとは違っていました。

その後偶然電車の中で会った時、Kくんは「上京する」と言っていました。それがKくんと話をした最後です。

Kくんがそれからどうなったのかはわかりません。

でも、今も街中でふと、Kくんに会うんじゃないかと思う時があります。

Kくん、実は僕も今東京に住んでるんだよ。

最近はどんな音楽を聴いているの?

単車には乗っているの?

Kくんが言ってくれた事、漫画に描いたんだよ。

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