土の上 9
宮崎信恵
随分前にアメリカンアフリカンキルトというものを知った。雑誌で見て、すぐに好きになった。
キルトやパッチワークというと、伝統的なパターンが綺麗に縫い合わされているものだと思っていた。でも、アフリカンアメリカンキルトは大胆かつ感覚的で自由な布の構成をしていた。また、手作業感丸出しの縫い目やいびつな形など、それぞれが独特な魅力を放っていた。今まで私の抱いていたイメージは一瞬で覆され、思わず自分でも作ってみたいと思った。
興味がわいて調べてみると、キルトといっても様々なものがあるらしかった。私が知っていたものはわずか一部で、キルトひとつをとって見ても、世界には様々な表現や感覚を持った人たちがいるんだな、と改めて思った。特筆すべきは、それがアーティストと呼ばれるような人たちではなく、おそらく無名の女性たちが仕事や家事、育児の合間に少しずつ制作したもの、ということだ。出来上がったものは家の中でベッドカバーとして使われたり、タペストリーとして壁に掛けられたりする。美術館やギャラリーに展示されるのではなく、自分たちの生活を彩るために作られているのだ。キルトの布の並びや針の運びからは、何時間も布と向き合った作者の姿を感じ取ることができる。中にはキルト作りにささやかな喜びを見出していた人も多かったんじゃないだろうか。何かを作る喜びは誰にでもあって、それは見ている人の心にも素直に伝わるのだと思う。
私がキルトを作る時は、初めに大体の図案を決めて、縫い合わせるすべての布を机の上に並べてみる。様々な色や柄の布の端切れを並び替え、完成図を想像しながら配置を決めていくのが楽しい。シミがあったり色褪せていたり、それぞれの布が持つ色や表情は、新しい布とは違った味わい深さがある。初めはバラバラだった小さな布が時間をかけてやがて大きな布になっていく。そうして完成する頃にはすっかり愛着がわいている。
去年の秋、キルトを紙で作ってみようと思いついた。 布の変わりに今まで集めていた包装紙や紙袋などを使った。図案を考え、紙を選ぶまでは多くの時間を要したけど、台紙に貼付けたらあっという間に完成してしまった。布のキルトとの時間の対比が妙に面白かった。
布と同じく、紙にも色々なものがある。雑誌の写真のページや文字のページ、折れた紙、日焼けした紙、ざらついた紙、分厚い紙など、紙のキルトも無数の可能性に満ちている。作業と時間の違いはあれど、どちらも完成したキルトを広げて満足に思うのだった。
いつか、小さな布や紙をかき集めてものすごく大きな一枚を作ってみたい。
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《著者プロフィール》
宮崎信恵(みやざきのぶえ)
1984年徳島生まれ。
STOMACHACHE.として妹と共に雑誌などのイラストを手がける。
その他、刺繍・パッチワーク・陶芸・木版画・俳句・自然農を実践する。
http://stomachache.jp
http://nobuemiyazaki.tumblr.com