土の上 19
宮崎信恵
娘と近くのショッピングモールへ買い物に行ったら、仲の良い親子にばったり会った。彼らの住む家はそこから一時間ほどかかるから、この辺りで会うのは結構珍しいことだと思う。しかもその日はたまたま娘の帰宅が早く、いつもならその時間にそこにいることはなかっただろう。彼らも買い物を終えて帰っている途中、忘れ物に気が付いて戻ってきたのだと言う。
外出先で偶然知人に会うと、つい必要以上に驚いてしまう。近くに住んでいたり、生活パターンが似ているならまだしも、時々あり得ないような遭遇があるのだ。
大学を出てからは東京の調布市に住んでいて、毎月第二日曜日に調布駅近くの布多天神社で開かれる骨董市に行くのがささやかな楽しみだった。ある日曜、まだ小さかった娘を抱っこして店を物色していると、こちらに向かって歩いてくる人がいた。何だろうと見上げると、大学時代の同級生だった。彼は長野に住んでいると聞いていたから、まさかこんな所で会うとは思わずびっくりした。
その後、私と娘は東京から名古屋に引っ越したのだけど、展示のために来た東京滞在中、妹と一緒に一日に何件かの打ち合わせに出た日があった。妹の家から渋谷へ向かおうとバスに乗ると、そこには友人が乗っていた。その後、移動している最中の恵比寿駅付近の路上と、打ち合わせ後に覗いた原宿の古着屋の中、そして、道を歩いていると急に建物の中から知人が出てきた。そうして一日に四人の知り合いに会ったのだった。こんなことってあるのかと、妙な気分になった。
日常生活ですれ違う人々の大半は初めて見る知らない人で、この先二度と会うこともないような人ばかりなのに、ある人とは何度も会ったり意外な場所で再会したりするのである。
名古屋に引っ越す前の、離婚すると決めてすぐの頃、新宿で仕事の打ち合わせに向かう途中で友人に遭遇した。その時初めて離婚話を打ち明けると、きっと私が行く方向に用事はなかっただろうけど、打ち合わせ場所の喫茶店まで一緒に歩きながら話をしてくれた。画家であり、音楽活動などをしている彼は両親が離婚していた。小さい頃は不登校だった時期もあったけど、あの学校に行かずに一人で過ごした時間が今の自分に大きな影響を与えている、と言う。ずっと娘のことが気がかりだったけど、「子どもは子どもで案外大丈夫だよ」と言ってくれた。その言葉に気持ちがふっと軽くなり、涙が滲んだのを覚えている。あの時、あのタイミングで彼に会うことができて良かったと思う。人との出会いは偶然なようで、そうなるようになっているのかもしれない。
若い頃は新たな出会いが楽しくて仕方なかったけど、離婚した頃からとても嫌になった。自分は何者なのか、わざわざしたくない話もしなくてはいけないし、億劫に思うことが多くなった。それでも新たな出会いは訪れて、春の芽のように育っていく。知るほどに重なり合う葉が多いことを知って親しさが増したりもする。これからどこでどんな人に出会うのか、少し楽しみにしている自分に気付いた。
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《著者プロフィール》
宮崎信恵(みやざきのぶえ)
1984年徳島生まれ。
STOMACHACHE.として妹と共に雑誌などのイラストを手がける。
その他、刺繍・パッチワーク・陶芸・木版画・俳句・自然農を実践する。
http://stomachache.jp
http://nobuemiyazaki.tumblr.com