土の上 20
宮崎信恵
夜中に雨が降ったらしく、カーテンの隙間から覗く外は薄暗く湿気ているようだった。
週末は朝寝坊ができる喜びを堪能する。そして、必ず娘が私の布団にやって来て、ジャンケンやあっち向いてホイを何度もやらされる。そのうち逃げるようにして布団を出る。
土曜の朝はNHK-FMでピーター・バラカンの『ウィークエンドサンシャイン』とゴンチチの『世界の快適音楽セレクション』を聴くのを楽しみにしている。ラジオから流れる心地よい音楽が緩やかに家中に充満していく。
昨日、新鮮なイカを二杯頂いた。一杯は冷凍し、もう一杯は半分を刺身にして、残りはエビとともにスパイスを効かせたカレーにした。最近、自分の中でエビ入りのカレーがブームで、天然のエビが安売りしているのを見つけると迷わず買って冷凍保存をしておく。
徳島は海産物や野菜が豊富で、比較的安価に入手できる。それに、近所の人に分けてもらうことも多々ある。美味しい飲食店もたくさんあるのだろうけど、どこも車で出かけなくてはいけないから、よっぽど面倒な時や忙しい時以外はほとんど家で食事している。その辺で下手な外食をするよりは、スーパーで買った良い食材をシンプルに調理した方が美味しい気がする。そして、お酒を飲んでも帰り道の心配がないのが良い。外でお酒を飲んで歩いて帰れるのは、街の良い所だよなぁと羨ましく思う。この辺りは街灯が少なく、夜は本当に真っ暗になってしまう。
昨日のカレーが残っていたから、今朝はチャパティを焼くことにした。小麦粉を捏ねて薄く伸ばし、フライパンに蓋をして弱火で両面焼く。仕上げにグリルで強火で加熱すると、ぷくーっと膨れて面白い。娘は捏ねたり伸ばしたりが楽しいらしく、いつもはりきって手伝ってくれる。子どものお手伝いは楽になるどころか、余計な手間が増えて却って大変なのだけど、色んなことをぐっと堪えて辛抱強くつき合う。親にとっては修行のような時間だな、と思う。それでも、娘は少しずつ上手にできることが増えていて、皿洗いや風呂掃除、サウナストーブの薪足しなどは安心して任せられるようになった。
チャパティは娘のリクエストだった。娘は家の本棚にある漫画の『クッキングパパ』を愛読していて、アニメの『美味しんぼ』も私と一緒にほとんど見ている。そのため、知識だけは無駄に詰め込まれていて、トンポーローを食べてみたいとか、今度の冬は湯葉鍋をしたい、とか、時々子どもらしからぬことを言う。私はそんな小さな美食家の要求に応えて見よう見まねであれこれ作ってみる。それをマンガナイズされた幸せそうなとろけ顔で美味そうに食べる姿がいつも可笑しい。
四枚焼いたチャパティは二人でぺろりと食べてしまった。鍋の中には楽しみがまだ残っている。
◇◇◇◇◇
《著者プロフィール》
宮崎信恵(みやざきのぶえ)
1984年徳島生まれ。
STOMACHACHE.として妹と共に雑誌などのイラストを手がける。
その他、刺繍・パッチワーク・陶芸・木版画・俳句・自然農を実践する。
http://stomachache.jp
http://nobuemiyazaki.tumblr.com