土の上 23

 昨日の昼、庭のコンテナの水の中に氷が一欠片浮いているのを見つけた。
 最近は寒い日が続いている。徳島の夏はすごく暑いけど、冬もそれなりに寒い。毎年、雪だって降る。
 学校から帰った娘に氷の話をすると、興奮気味に「見たい!」と言う。私も子どもの頃は氷が好きだったけど、何しろ娘は『アナ雪』の洗礼を受けているから、一年中氷の本を見るくらいに大好きだ。
 今はもう溶けてしまっているだろうから、明日の朝に見ようということで落ち着いた。娘はがっかりしながらも、「椅子を作るんだ!」と張り切って庭に駆け出した。子どもは風の子、という言葉がふと頭に浮かんだ。身軽に走り回り、寒さよりも遊びに没頭する子どもには感心する。そして、いつから自分はこんなに冷え性になり、すぐに疲れるようになったのだろうか、と不思議に思う。しばらくして呼ばれて外に出ると、干し草と枝と石を使って二つの椅子ができていた。椅子というより座布団のようだった。座ってみるとやや小さかったものの、真っ赤に紅葉したウルシの木が目の前に見える特等席だということがわかった。
 今朝、起きていつものように朝ご飯の支度をしていた。後から起きて来た娘は、目の開ききらない顔で開口一番「氷」とだけ言った。私はすっかり忘れてしまっていた。いつからこんなに忘れっぽくなったのだろうか。不思議だ。
 温かい格好をしてまだ薄暗い庭に出ると、土や葉にはうっすらと霜が降りていた。昨日作った椅子も凍っている。コンテナの中を見ると、氷が張っていた。冬休みにアイススケートに行くのを楽しみにしている娘は「滑ってみてもいい?」と長靴で氷の上に乗った。たちまち氷は割れて、下の方から現れた水に混じった。氷が割れたことにしょんぼりしていたけど、欠片を手に嬉しそうに部屋に戻った。薄さ三ミリ程で、少し気泡の入った氷は透き通っていて綺麗だった。
 
 学校から帰ってきた娘は、すぐに冷凍庫に保存していた氷を取り出し、しばらくうっとり眺めていた。そして、宿題なんかせずに、今日も庭へと駆け出して行った。

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《著者プロフィール》
宮崎信恵(みやざきのぶえ)
1984年徳島生まれ。
STOMACHACHE.として妹と共に雑誌などのイラストを手がける。
その他、刺繍・パッチワーク・陶芸・木版画・俳句・自然農を実践する。
http://stomachache.jp
http://nobuemiyazaki.tumblr.com