土の上 47
宮崎信恵
友人や隣の家のおじさんから野菜をたくさん頂き、空っぽだった家の冷蔵庫がいっぱいになった。同じく、私の失っていたやる気もいくらか満ちてきたように思う。どうやら庫内の密度と人の気分の上がり下がりは比例するらしい。私の母は、冷蔵庫に常に大量の食料を詰め込んでおきたがるのだけど、そうやって無意識に気持ちを保っているのかもしれない。そんな風に考えたら、さして悪いことでもないような気がしてくる。
今週、四国は梅雨入りした。ラジオの天気予報でその一報を聞いたときには、少し早いんじゃないか、と意外な気がしたけど、このところは雨続きで、梅雨らしい風景も多々見られた。
娘を迎えに行こうと長靴を履き、ビニール傘をさして家を出ると、道路の真ん中に体を目一杯伸ばして地を這うカタツムリを見つけた。この決死の大横断が上手く遂行されるのを願いつつ、迎えの道を進むと紫陽花が目に入る。雨降りの路上で見かける紫陽花の美しさには時々ハッとさせられることがある。雨が降ってなんぼの花なのではないかと思う。
田んぼの水面には雨粒があちこちに波紋を作っては消え、作っては消え、を延々繰り返す。おたまじゃくしはその水面下で着々と成長している。日々眺めていると、カエルへと変態してゆく過程を垣間見ることができる。毎年、こうして田んぼの中を元気に泳ぎ回るおたまじゃくしの群像を見ていると、世界には恐ろしい数のカエルが存在するのだな、と思う。そして、私たちはそのような田んぼで育った米を食べている、という知りたくもない現実に直面する。普段は無関係だと思い込んでいるものでも、実はどこかで一瞬のすれ違いのような関わりを持って生きているものなのかもしれない。
娘と家に帰ると、体操服などを洗濯して客間に部屋干しをする。
こうして、のろのろと似たような毎日が過ぎていった。
今日は久しぶりに晴れたから、ここぞとばかりに洗濯をした。洗い立てのジーンズに足を通せば、雨の日の気分も少しは晴れるだろう。
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《著者プロフィール》
宮崎信恵(みやざきのぶえ)
1984年徳島生まれ。
STOMACHACHE.として妹と共に雑誌などのイラストを手がける。
その他、刺繍・パッチワーク・陶芸・木版画・俳句・自然農を実践する。
http://stomachache.jp
http://nobuemiyazaki.tumblr.com