土の上 1

 徳島に引っ越して三年目。私は、四国・徳島の阿波山脈と吉野川に挟まれたのどかな町に暮らしている。
 引っ越した当時、四歳だったひとり娘は七歳になった。
 私と娘の住む家は、実家から車を五分走らせた所にあり、私の父親が半年かけて基礎から独りで作り上げた。隙間だらけで不満もあるけど、今では居心地の良い我が家となった。
 家の裏側にある庭の畑では、多種の野菜と果物の木を育て、放っておけば草だらけになるのを眺めながら、今日も机に向かって絵を描く。
 私は東京に住む妹と共に雑誌や本の挿絵や装丁、パッケージ、web、店の壁画、CDジャケット、Tシャツ等のイラストを描いている。
 時々イベントに出店してTシャツを売ったり、展覧会のために作品を制作し、東京まで車を走らせることもある。
 この連載では、家族や徳島での生活、本業のイラスト以外の制作物についても触れたいと思う。
 料理や工作、手芸や陶芸など、それが何であれ「何かをつくる」ということは、物事の成り立ちを知ることができて面白い。繰り返し手を動かしていると、どんどん自分の感覚が研ぎ澄まされて次の段階の新たな何かが見えてくる。もっともっと新しい何かを見たい、と思う。生い茂った背の高い草むらの中をどんどん掻き分けて進んでいくかのような。そうしたことが喜びとなって、私の手を動かし続けている。
 そして、何かを作っている時間は楽しい。悩む事もあるけど楽しい。楽しい気持ちでいたいから、私は常に何かを作り続けているのかな、とも思う。
 一方、仕事と制作以外の時間は家事と育児に追われる普通の母親で、多くの親がそうであるように、子どもの思いがけない言動に笑ったり怒ったりしていつの間にか慌ただしく毎日が過ぎ去ってゆく。
 今朝、ミニトマトの茎と支柱を紐で結ぼうと畑に出た。すると、蜂がすぐそばの菜っ葉に付いた青虫を捕虫している。あっという間に虫をボール状に丸め、私が少し目を離した隙にいつの間にか飛び去っていた。梅雨真っ只中の湿った土の上、指に付いたトマトの青臭さがじんわり薫った。
 これから虫に怯える暑い暑い阿波の夏がやってくる。

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《著者プロフィール》
宮崎信恵(みやざきのぶえ)
1984年徳島生まれ。
STOMACHACHE.として妹と共に雑誌などのイラストを手がける。
その他、刺繍・パッチワーク・陶芸・木版画・俳句・自然農を実践する。
http://stomachache.jp
http://nobuemiyazaki.tumblr.com