土の上 35
宮崎信恵
俳句日記5(二〇一七・十二~二〇一八・二) 涙目で大便する子 ウミガメみたい 正しさを数えてセーター編んでいる いろあやざか はいらかさん や しかんけん ついついメモる 子の言い間違い 雨降ったら 長靴を手に迎え行く きつね蕎麦 「今朝のは八〇点だね」と 美食家の君 ランドセル背負う 塩握り 漬物 味噌汁 カリフラワー ひとりの昼食 ただただ面倒 次はいつ会えるのと君が言ったから 飛んで行きたくなるね 今すぐ あ、雪と思ったらただの埃舞う 熱下がらん あなたの空は今日も天井 ラジオから「明日の風をお伝えします」 「いつもママが着てる様な木綿」 =ジーンズのこと 冷えきった手 擦り合わせて 二月走る 待てと言う けれど無言で逃げる二月 なぜこんな雪の積もった土の上 ゴボウを抜いてる自分がいる 風呂の中 水遁の術 熱くて潜れん ひと掬いして握る雪 手のひらの体温奪って 固く結ぶ ストーブの周りをぐるぐる 母と子の始めた踊りはやめられない 一年中 「本日休業」 蔦絡む 初めてのきすの天ぷら 給食にも出ますようにと祈る晩 春を待つ 虫がいる 鳥がいる 人がいる 貯金箱 りかちゃんの服 ママに発注 みぎわさんの部屋に憧れて 模様替え 「学校はかくかくしかじかだからね」と 小さな社会の苦労知る 姉の様な 古き友の様な 新しき友 帰り道 春の匂いのする方へ 吸い寄せられてる 梅の木の下 君の頬も 触れたのかしら この風は 春が来るのかい 答えは 吹く風の中 袖で拭う 涙 こんな味だったっけな 姪の折る 紙の百合 白 棺の上 美しく 悲しみ湛えて この家に来るのが楽しかったこと アルバムの私 見て思い出す アクセルを踏んで 踏んで 踏んで 君住む街へ 夜の布団 街の灯の中 君との今日 纏って寝る 日が明けてしまう 雨音の消えるトンネル カーステレオからの音楽 妙に響く 「出口雨」 鈍い光射す トンネル抜ける 霧覆う ハイウェイ 演出・神 頭ん中 消えた句探して 記憶辿る 雑草と呼ばれる草にも新芽があり その芽を摘むこと ためらう手あり 部屋の隅 ビンの日を待つ 『still life』 土曜朝 ゴールドベルク変奏曲 グレン・グールドのピアノで聴く 怒られて 部屋のドア閉ざす 壁隔てて 一人ぼっちになる二人 着たまま寝た 「私のセーター」になってゆく ◇◇◇◇◇ 《著者プロフィール》 宮崎信恵(みやざきのぶえ) 1984年徳島生まれ。 STOMACHACHE.として妹と共に雑誌などのイラストを手がける。 その他、刺繍・パッチワーク・陶芸・木版画・俳句・自然農を実践する。 http://stomachache.jp http://nobuemiyazaki.tumblr.com