土の上 36
宮崎信恵
近頃は春が大きな顔をして歩いていて、冬は朝晩のみ、その気配を残す。
暖かくなったから、畑に蒔けそうな種を蒔いたり、ホームセンターで花の球根などを衝動的に買い求めそうになる。草の新芽の勢いも感じ始め、その葉の先には夏の大草原の庭が予感されて、悪事を働く前に若い芽を摘もうと必死で鎌を動かす自分がいる。
園芸の本を読んでいる影響で、今年は花をたくさん育てたいと思っている。どんな花が良いだろうかと、娘の本棚から図鑑を拝借して開き、花の咲き乱れる庭を想像しては、視界に入り込んでくる雑然とした現状に我に帰る。最近は水やりや野菜の成長観察、外での食事など、庭をめぐる楽しみが増えた。季節ごとに新たな楽しみが見つかるのは幸福なことだと思う。
今月初め、どこから飛んできたのか鳥の巣が落ちていた。学校から帰った娘が庭に出ると、丸太の椅子の上に巣を見つけたのだと言う。辺りを見回すと、林の木の枝の先にもう一つ巣を見つけた。高所にあるため、中の様子はわからなかったけど、下から双眼鏡で見る限りでは鳥の姿は確認できなかった。以来、庭に出るたびに巣を見ているけど、どうやらもう使われていない巣のようだ。落ちていた巣も、空っぽだったから春一番の風に飛ばされたのだろう。
巣を注意深く見てみると、様々な場所から材料を調達してきたことがわかる。枯れた細い蔓やビニール紐、綿、髪の毛などが絡み合って小さな丸い巣を形成しており、真ん中の窪みには枯葉が敷いてある。クチバシひとつで上手に作るもんだなぁと感心した。鳥にも器用な者と不器用な者がいるのだろうか。落ちていた巣を真似た娘作の巣も、よく観察して作られていて感心した。
それにしても、巣が風に乗って飛んでいる光景を想像すると結構シュールで笑える。丸太の上に着地する瞬間を見てみたかったなぁと思う。
スーパーでは高騰していた野菜の値段も少しずつ緩和されているようだ。最近よく見かけるようになった菜花を買って、鍋いっぱいの湯で湯掻いた。鰹節と醤油で和えて食卓に出すと、娘は一口しか食べない。仕方なく私だけで食べる。口中にほろ苦い春の味がした。私も少しずつ春の体になっていく。
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《著者プロフィール》
宮崎信恵(みやざきのぶえ)
1984年徳島生まれ。
STOMACHACHE.として妹と共に雑誌などのイラストを手がける。
その他、刺繍・パッチワーク・陶芸・木版画・俳句・自然農を実践する。
http://stomachache.jp
http://nobuemiyazaki.tumblr.com