トーチ

2019年9月12日 木曜日

転んで財布と記憶を無くしても、酒を飲み続けたい理由

富士そばで冷やしきつねうどんを注文し、店内奥に進んで水を取ろうとしたら、ウォーターサーバーの横にコップがない。
昼時の店内は混雑していて、店員は忙しそうにしている。一瞬迷ったが、入り口付近にもう一つサーバーがあるのでそこで水を汲み、再び店内奥の席に座った。
うどんを食べていると、一人の女性がコップのないウォーターサーバーの前で立ち止まった。女性は「すみません、コップをいただけますか」と厨房内にいる店員に声をかけた。店員さんはどうぞとコップを渡し、ウォーターサーバーの横にコップを補充した。

なんてことない日常の一コマなんですが、私はおあげを食べながら、目の前で起きていることに衝撃を受けていました。
コップをもらうことはごく当たり前の要求です。その場で店員さんにお願いすれば、わざわざ入口付近まで戻らずとも水を飲めるし、店員さんもコップがないことに気がつくことができる上に、それ以降コップがないことで客が困ることも防げる。みんながハッピーな展開です。

私は、「忙しそうにしている人の仕事のジャマをしたくない」という理由で声をかけませんでした。結果、忙殺されている店員さんがわざわざ厨房から出て、何かの気まぐれで入口近くのウォーターサーバーまで行かない限り、コップがなくて困る客は増え続ける一方なのです。

もし話しかけて嫌な顔されたら傷つくなぁという身勝手な予想でコミュニケーションを怠けたこと、これまでの人生で幾度となくあります。その度に世の中の歯車が狂い、結果的に誰かを不幸にしているのかもしれない。そう考えると、私が普段相手のためを思ってやっていることって、実は全て間違いなのでは…? 真夏の富士そば高円寺店で、自分自身に対して深く絶望してしまいました。

下戸の方々から、なぜ酒飲みは酒を飲むのかとよく聞かれます。昨日どうやって帰ったか記憶にない、二日酔いで仕事が手につかないとか、バカじゃないのかと。「いや〜、なんでだろうね。でへ」とヘラヘラしながらごまかしていましたが、マジレスすると富士そばウォーターサーバー事変(the FUJISOBA Water Dispenser Incident、略してFWDI)のようなことはほとんど毎日のようにあって、コツコツと溜まっていくんですよ、自分に対するがっかりポイントが。そのポイントカードが満タンになった時、もしくはポイントカードを無理やりにでも破りたい時に飲みたくなるんですよネ。

今日はもう無理だ、今日もまたFWDIだ、もうがんばれない、とてもじゃないけど自分に付き合いきれない。自我を脱ぎ捨てて、どうにか今日という日を終わらせたい…酒で脳みそを麻痺させてでも乗り越えないといけない夜、皆さんにもあるんじゃないでしょうか。酒飲みが全員こうであるとは言いませんが、大多数な気はしています。

酒で記憶をなくす度に脳みそは大ダメージを受けていて、将来認知症になる可能性がめちゃくちゃ高くなるそうです。めっちゃ怖くないですか。私はそれを聞いてからはほどほどを心がけるようにしています。道端や電車内で泥酔している人、迷惑ですよね。嫌だなあと思いつつ、この人も自分のダメさに打ちのめされているのかなあと思うと、ちょっと切ない気持ちになったりならなかったり…。まあ結局お酒に逃げてるだけじゃんって言われてしまうとそれまでなの、あの、そこはつっこまないでちょ。