6/30に発売されたバロン吉元『新装版 昭和柔俠伝』〈中〉の刊行を記念して、内田樹さんと志磨遼平さんの特別対談をトーチのYouTube公式チャンネルで公開した。
のべ100分に迫る濃密なトーク、未読の方でもお楽しみいただける内容である。YouTubeの概要欄には以下のタイムスタンプもまとめているので、どのパートからでも、ぜひご覧いただきたい。
【タイムスタンプ一覧】
0:00 オープニング
5:15 プロフィール紹介
5:49 企画趣旨
10:37 バロン吉元 原画展への訪問と感想
15:38 柔俠伝シリーズとは
17:48 【内田さん】柔俠伝との出会い、時代を超えた傑作
30:40 【志磨さん】現代に読む「柔俠伝」体験
33:30 人間の身体の強さと美しさを描く画力
40:58 バロン劇画のファッション描写
48:07 なぜ日本の漫画文化は発展したか
51:01 アメリカン・カルチャーを和製へ〈大滝詠一さん、伊藤銀次さんのこと〉
56:48 「柔俠伝」で描かれる日本近代史、橋本治さんとの共通点
59:00 「ハートブレイク・ホテル」と「柔俠伝」
1:02:32 同時代の漫画の中においての異質さ
1:06:51 アジア主義と「柔俠伝」
1:09:50 【志磨さん】好きなキャラクター
1:11:20 東アジア的成熟観
1:13:00 “師”を持たない主人公像
1:20:35 【内田さん】好きなキャラクター
1:25:04 三島由紀夫亡き後「柔俠伝」が成し得た達成
1:27:04 日本人の正義感とは
1:35:20 対談を振り返って・新たな読者へひとこと

『柔俠伝』シリーズは、明治・大正・昭和という日本近代を描いた青春大河である。シリーズ5作にわたって、時代の大きなうねりの中を生きる柳一族、親子四代の姿が描かれる。第1シリーズ『柔俠伝』では、明治の柔術家・柳勘九郎の半生が描かれ、第2シリーズ『昭和柔俠伝』では、その息子・柳勘太郎の成長を主軸にしながら、戦争へと突入し昭和20年に終戦を迎えるまでの日本の姿が描かれる。
本作に登場するのは、時代の理不尽や不条理の前に立たされた人間たちである。
あの時、あの場面、自分はどうすればよかったのか——。
そうした問いへの「答え」は、しばしば未来から過去を振り返ったときに、結果論として初めて導き出されるものである。現在進行形のただなかにいる人間の前に、あらかじめ「正しさ」は用意されていない。それでも私たちは常に判断を強いられる。本作では激動の時代を背景に、答えのない問いが幾度となく人々に降りかかる。


このたびの復刊にあたって私が考えていたのは、作品をもう一度読めるかたちにするだけでなく、今を生きるこれからの読者に本作をもう一度「問い」として届けるためには、どのような導線が必要なのか、ということだった。今回の対談を企画した背景には、内田さんと志磨さんの言葉を通して、その道筋を探りたいという思いがあった。
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内田樹さんには、このたびの『新装版 昭和柔俠伝』〈上・中・下〉全巻に解説を寄せていただいている。
私が内田さんの著書に初めて触れたのは、数年前に父が「面白いよ」と言って貸してくれた『映画の構造分析』だった。構造主義の思考を手がかりに、映画を読み解く新たな視角が次々とひらかれていく内容に興奮を覚えながら夢中で読み進めた。
長きにわたって、社会や教育、身体、記憶の問題と向き合ってこられた内田さんのお仕事は、『昭和柔俠伝』が描く「時代に呑まれながらも、人はいかに今を生きるのか」という主題と深く響き合うはずだと感じ、解説をお願いした。当時のメールを読み返してみると、私はこう書いていた。
「五濁悪世に胸を痛め、力を殺がれ、それでも正気を保とうとする人々にこの企画を届けたい」
今振り返ると、少し大きな言葉を書いていたな、と思う。けれどその気持ちは変わっていない。
内田さんが上巻・中巻と寄せてくださった帯文をご紹介したい。
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【上巻】
「三島由紀夫は東大全共闘に向かって、『君たちが『天皇』と一言いえば、私はいっしょにやっただろう』と宣言した。
その一年後に、バロン吉元は三島とはまったく違う言葉づかいで、まったく違う文脈において、あらゆる政治的立場を越えて日本人の正義感に触れる物語を語った。
これは「偉業」と呼ぶにふさわしい達成だ。」
——解説「『柔俠伝』にある『時代を超えるもの』」より
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【中巻】
「もし日本が『暴力を抑制する倫理』を持ちえたとしたら、どのような人物が存在したか——。これは正義と暴力の葛藤を体現する、ひとりの“俠”の、『ありえたかもしれない倫理の物語』である。」
——解説「『正義と暴力の葛藤』を体現する“俠”の倫理」より
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歴史は単に繰り返すのではなく、人々の忘却のなかで、かたちを変えてふたたび目の前に現れる。その抗いがたい時代のうねりを、『柔俠伝』シリーズは、分断と連帯のはざまに立つ少年少女の身体と抵抗の物語として描いている。彼ら/彼女らは、信念を貫く瞬間もあれば、時に揺らぎに身を委ねることもある。それでも、ひたむきに「今」を生きていく。
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このたびの対談では、連載当時に作品を愛読されていた内田さんのお相手として、今回の新装版を機に初めて『柔俠伝』シリーズを読まれた志磨遼平さんへお声がけした。
私が志磨さんの音楽に初めて触れたのは、2009年、今はなき渋谷AXで開催された「ロッケンロー★サミット」でのことだった。ザ50回転ズ目当てで参加していた高校生の私は、そこで初めて毛皮のマリーズを目撃する。現実世界で初めて目にしたダーク・ヒーロー、大きな衝撃。終演後ガラケーで即検索。当時志磨さんがやられていた「コックサッカー文学」というブログに行き着く。
以来、志磨さんが更新する日記を通して、あらゆる時代の映画や文学、音楽、そして漫画に出会った。私にとって志磨さんは、表現者であると同時に、さまざまな文化へ手を伸ばすための入口を開いてくれた人でもあった。
その経験は、今回対談動画の撮影・編集のすべてを担ってくださった漫画家・今井新さん(トーチwebで『ああ資本主義の悪の華はいつまで咲き誇るのか。』連載中)とも共有でき、大いに盛り上がった。今井さんと私はそれぞれ92年・93年生まれの同世代。私たちにとって志磨さんの、音楽だけでなく、「文化の伝道師」としての影響は絶大であり、そんな「志磨・ジェネレイション」はめちゃくちゃ沢山いる(もしかしたら、あなたも)。
また、志磨さんは内田さんが手掛けてきた数々の著書のフォロワーでもある。
とはいえ、お二人は今回の収録がなんと初対面。
1970年代当時にリアルタイムで連載を追っていた内田さんと、現代に初めて『柔俠伝』シリーズに触れた志磨さん。新旧読者のお二人のあいだでどのような対話が生まれるのか、収録前からとても楽しみにしていた。
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志磨さんは対談の中で、本作を読んだ体験を、
「胸ぐらを掴まれて、読め、最後まで読めと言われているようだった。」
と語っていた。
作品の方から、時代を超えて、今の私たちに掴みかかる。過去を眺めているつもりが、実は見つめ返されているのは私たちの方だ。『柔俠伝』シリーズを通して、日本近代史という「かつて来た道」と向き合うことは、自分たちが今どのような時代にいるのかを、逆に照らし返されることでもある。
『昭和柔俠伝』で描かれるのは、日本における民権的な連帯の思想が、やがて植民地支配や侵略戦争へと変質していく時代。その背景の中で、バロン吉元は何を描こうとしていたのか。その政治性は、単純に右か左か、体制か反体制かという話ではない。そこにあるのは、人間の倫理や感情や正義感の問題である。
対談の終盤、志磨さんは、現代に生きる自分たちにとって「日本人の正義感」とは何かを、内田さんに問いかける。

内田さんは、それを出来合いの「正義」としてではなく、正義を求めるイノセントな心として語る。

ぜひ動画本編で、お二人の対話をご覧いただきたい。
『新装版 柔俠伝』〈上〉書籍・電子情報はこちら
『新装版 昭和柔俠伝』〈上〉書籍・電子情報はこちら
『昭和柔俠伝』トーチwebで試し読み公開中
『新装版 昭和柔俠伝』は、2025年11月30日に上巻、2026年6月30日には中巻を刊行し、下巻も年内の刊行を目指して編集中である。
この対談動画が、『柔俠伝』シリーズをすでに読んだことのある方にとっては、いまの時代に改めて作品と向き合う時間に、未読の方にとっては、物語に出会う入口になれば嬉しく思う。
内田樹さん、志磨遼平さん、ご出演ありがとうございました!
担当編集 エ☆ミリー吉元
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『柔俠伝』シリーズや対談動画とのオススメ併読・併観リスト
(動画で触れられたものなど)▼
【Book】
・内田樹『日本型コミューン主義の擁護と顕彰―権藤成卿の人と思想』
・内田樹『日本辺境論』
・内田樹・石川康宏『若者よ、マルクスを読もう』
・大岡昇平『俘虜記』
・橋本治『革命的半ズボン主義宣言』
・火野葦平『花と龍』
【Film】
・稲垣浩監督、阪東妻三郎主演『無法松の一生』(1943年版)
・豊島圭介監督『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』
・リチャード・ソープ監督、エルヴィス・プレスリー主演『監獄ロック』
【Music】
・あがた森魚、緑魔子『昭和柔俠伝の唄(最后のダンスステップ)』
・エルヴィス・プレスリー『ハートブレイク・ホテル』
・ドレスコーズ『国家』ブルーレイディスク(the dresscodes 2017 “meme” TOUR FINAL 新木場STUDIO COAST)
【Person/Collective】
・伊藤銀次
・井上雄彦
・大滝詠一
・玄洋社
・黒龍会
・中野正剛
・はっぴいえんど
・三島由紀夫
and more…!
挙げきれません、詳細はぜひ動画本編で!