トーチ

2020年5月25日 月曜日

『自転車屋さんの高橋くん』単行本化記念特集/あらゆる場所に高橋が…③山田の高橋くん

高橋くんは保育園から一緒の地元の友人です。高橋くんはガムが好きです。でも、お金持ちのHくんが児童館で板ガムをばら撒いた時、一枚も拾いませんでした。「おれはそんなに落ちぶれちゃいねーよ」と、両手をポケットに入れたまま言いました。かっこいいな、僕も高橋くんのように振る舞いたいな、と思いましたが、すでに数枚拾った後でした。高橋くん以外、その場にいた全員が這いつくばってガムを拾っていました。小学校三年生頃のことです。

高校生になると、高橋くんはナンパで知り合った子と付き合いはじめました。興味津々で詳しく話を聞くと、かわいい子がいたので自動販売機でジュースを買うふりをしてわざと小銭を落とし、その子に拾ってもらったのだと言います。なんて高度な方法だろうと感心しました。初めの一言は「どこ中?」だったそうです。

ハタチ頃、一度だけ本を貸しあったことがあります。高橋くんが持ってきたのは五木寛之の『大河の一滴』でした。僕は村上春樹の『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』を貸しました。今でも高橋くんの家の本棚にあるはずです。

高橋くんのお母さんが亡くなった時、高橋くんの住んでいた団地の集会場でお通夜をしました。お焼香を終えて、なんとなくゴミ捨て場でダラダラしていると、高橋くんが上を向きながら「みんな今日はありがとね」と言いました。つられて上をみると満月でした。あの日が満月だったことを、あの場にいたみんなが覚えている気がします。

高橋くんとは今でもたまに会います。いつも飄々としていてなんでも器用にこなす人です。

(編集部員・山田)

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