トーチ

♯33 街に「ベッド」を挿入する
 
 
 眠る場所を探している。

 自宅にベッドや布団がないという話ではない。部屋が散らかっていて眠るためのスペースがないという話でもない。一度家を出たが最後、また帰ってくるまで眠る場所が全然ないので困っているのだ。

 自分が不規則な生活をしているからなのか、体調に問題があるのか、大体一日のどこかで猛烈に眠くなるタイミングがある。眠気を噛み殺して働けばいいだけの話なのだが、とはいえ眠れる場所があるなら眠りたい。オフィスにいるならかろうじて椅子に座りながら眠れるが、街なかにいるとほとんど眠れる場所などない。もちろん時間があればインターネットカフェなどに駆け込んで眠ればいいわけだが、なかなかそうもいかない。こっちはがっつり仮眠をとりたいわけではなくて、ただちょっと眠りたいだけなのだ。わがままといえばそれまでなのだが……。

 しかし実際のところ、街を見回してみると眠ることはおろか横になれる場所さえ少ないことに気付かされる。いまや公園のベンチも仕切りが設けられていて横になれないし、そもそも公園自体が少なくなっている印象もある。もっとも、ベンチの仕切りは街なかの空きスペースに設けられた謎のオブジェと同様、ホームレス対策の一環なのだろう。しかしそういったかたちで街のあらゆる場所から隙間や余白を奪っていくことは、いわゆる「ホームレス」ではない多くの人びとのこともホームレスにしてしまうように思う。

 街なかから曖昧なスペースを減らしていくことはたしかに合理的だ。あらゆる場所が意味をもち、きちんとした機能が与えられている。街の機能を細かく整理していくことは、ある意味でホームフルとも親和性が高いような印象を与えるかもしれない。でも、前回コインランドリーに触れたように、実は機能にまとわりついた余白こそが「ホーム」を生んでいるのだ。ひとつの機能だけに縛られた場所は窮屈で、人を窒息させてしまう。さまざまなやり方で解釈でき、単一の機能に縛られていない場所こそがホームにとっては重要なのだし、ひいてはそれが街を豊かにするといえないだろうか。

 終電も近い真夜中、道路沿いの生け垣や駅の隅っこで眠りこけているサラリーマンはどこか清々しい。それは彼らが街の機能を書き換えて風通しをよくしてくれるからだ。彼らはただの生け垣や駅のタイルをベッドに書き換え、そこに無理やりホームをねじ込んでみせる。SNSでしばしば流れてくる「#SHIBUYAMELTDOWN」とはホームフルの実践の記録である。「ただの酔っ払いでしょ」と言われると言い返せないけれど。

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《著者プロフィール》
もてスリム
1989年、東京生まれ。おとめ座。編集者/ライター。
http://motesl.im/
https://www.instagram.com/moteslim/

老後を考える

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1984年広島県生まれ。
2003年にキヤノン写真新世紀で荒木経惟氏より優秀賞を受賞、写真家としてのキャリアをスタートさせる。広告、雑誌、CDジャケット、PV等幅広く活躍中。
著書に『働けECD――わたしの育児混沌記』(ミュージック・マガジン)、『かなわない』(タバブックス)、『家族最後の日』(太田出版)がある。
『文藝』(河出書房新社)にて「24時間365日」を連載中。
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畑中章宏(はたなかあきひろ)

1962年大阪府生まれ。
作家・民俗学者・編集者。著書に『災害と妖怪』(亜紀書房)、『蚕』(晶文社)、『『日本残酷物語』を読む』(平凡社)、『天災と日本人』(筑摩書房)、『21世紀の民俗学』(KADOKAWA)ほか多数。
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