トーチ

♯26 冬のホーム、夏のホーム
 
 
 最近、寒い。

 しょうもない話だけれど温風が苦手なので暖房をつけないようにしていて、そうすると当たり前のように部屋が寒い。そうすると動きも緩やかになっていき、机の前とトイレを往復し、お風呂に入って眠るしかなくなる。眠るときはなるべく暖かい格好をするように心がけているので、眠っていると暖かい。だからずっと眠る。

 寒いと身体が縮こまるようにして、「ホーム」も縮こまっていくような気がする。暖かい季節は家のなかを歩き回れるし、窓も開けて風を取り込んじゃったりなんかするし、外を散歩するのも楽しい。寒いと行動範囲が心なしか狭まり、それに従って「ホーム」も収縮していく。「家」の大きさは変わらないのに「ホーム」だけが縮こまっていくものだから、冬の家はなんだかブカブカだ。

 ならば寒い地域の「ホーム」は常に暑い地域の「ホーム」より小さくなっているのだろうか。北海道にも沖縄にも住んだことがないので、実際のところどうなのかはよくわからない。寒い地域の人々はクルマ移動が多いので結果的に薄着でも暮らしやすいと昔誰かに聞いたことがあるけれど、それが正しいとすれば、暖かい場所で薄着で過ごせていたとしても、やはり「ホーム」は小さくなっている気がする。

 こうして結局、いつものように「家」と「ホーム」のズレが気になってしまう。暑い地域も寒い地域も家は似たような形をしていて、気温の差に伴うホームの変化に対応しきれていない気がしてしまうのだ。もちろん、暑い地域の住宅は風通しがよくなるよう設計されていたり、寒い地域は熱を逃さないようにつくられていたりはするだろう。でも、住宅の形自体は概ね同じものだろうし、なにか別の可能性はなかったのかと思ってしまう。

 夜、家に帰ってきて、ドアを開けて部屋の中に入る。部屋の中は暗くて、ひんやりとした空気が流れている。電気をつける。人によっては暖房やストーブや電気カーペットのスイッチをオンにするだろう。それはもっぱら部屋を温めるために行なわれることだが、きっと温めることで「ホーム」を取り戻すための振る舞いでもあるのだろう。

 寒い寒いといいながら、ぼくは冬の夜に外を散歩するのが一番楽しい。温かいコートを着てマフラーをぐるぐる巻き、ポケットに手を突っ込んで歩く。昔は缶ビールを片手に歩くこともあった。それはあらゆる人々のホームが縮こまってしまった街に飛び出して自分のホームを広げていくことでもあって、まだ誰の足跡もついていない雪原をひとりで歩くのと似ている。

 コートの表面を覆うようにして自分のホームはあって、一歩進むたびにホームは揺れ、少し広がってはまた縮こまってしまう。だから冬は「ホーム」を肌で感じるのに一番いい季節なのだ。

◇◇◇◇◇

《著者プロフィール》
もてスリム
1989年、東京生まれ。おとめ座。編集者/ライター。
http://motesl.im/
https://www.instagram.com/moteslim/

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作家・民俗学者・編集者。著書に『災害と妖怪』(亜紀書房)、『蚕』(晶文社)、『『日本残酷物語』を読む』(平凡社)、『天災と日本人』(筑摩書房)、『21世紀の民俗学』(KADOKAWA)ほか多数。
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